資金需要の発生が明確な「増加運転資金」
銀行の融資判断のためには、なぜその融資が必要なのかをはっきりとさせることが大前提となる。それが先ほども説明した「要資事由」だ。ポイントは、事業計画とリンクさせることだ。
企業は一般に、売り上げが伸びるときと、売り上げが落ちていくとき、この2つの時期に資金が必要になる。売り上げが安定しているときは、借り入れはほとんどいらないものだ。売り上げが伸びるときは、売り上げが立つ前に仕入れが必要になる。これを「増加運転資金」という。
この場合、「こういう商品、サービスが売れている」という説明ができれば問題ない。決算書の数字も良いので、金融機関は「融資したい」と殺到するだろう。私の経験上、「従業員のボーナス資金」「納税資金」なども半年程度の期間であれば、各行横並びでだぶっても融資してくれる。
資金需要の理由が明確で、しかも他の金融機関の動きは分かっていないからだ。あるメガバンクが数年前、事業性資金のパッケージローンを出し、他のメガバンクや地銀の一部も追随して同じような商品を用意した。こういうタイプのローンは、1件当たりの金額はさほど大きくないが、定型的な審査で通るので融資決定までの時間が早く、同時に数行に申し込んで複数から融資を受けられることもある。
逆に、東京都が設立した新銀行東京がなぜ失敗したかというと、銀行全体をパッケージ化し、与信確率のみで融資を判断したからだ。経営者の資質など数値以外の要素をまったく考慮しないというのは、ある意味、銀行としての判断を放棄したようなものだ。融資の判断は基本的に1か0であって、確率だけ見て貸すのでは失敗するのが当然だ。
「キャッシュ」を生み出すまでの物語を語る
企業にとって資金需要が発生するもうひとつのケースは、売り上げが下がっているときだ。売り上げが下がっているのだから、利益は低下し、場合によっては赤字になっているかもしれない。当然、銀行側は融資をしぶる。そこで必要なのが、明るい将来のシナリオだ。「いまは売り上げが下がっているが、底を打った」「新規事業がこれから立ち上がる」といった説明をするのである。
もちろん、銀行もこちらの話をうのみにするわけはない。根拠と見通しについて根掘り葉掘り聞いてくる。そこで数字やデータ、事実で説明するのである。繰り返しになるが、資金の使途を明確にし、返済する財源が十分に見込めることを客観的な根拠をもとに説明しないと銀行は融資してくれない。
ただ、これをあまり難しく考えすぎるのも問題だ。将来のことをすべて完璧に予測することは無理。完璧な予測のために時間と労力をかけすぎるのは合理的とはいえない。ポイントは、資金の流れをひとつのストーリーとして分かりやすく語ることだ。
借りた資金が商品の在庫や設備になり、それによって売り上げが立ってどれだけのキャッシュを生み出すのかを、生き生きとした物語にするのである。その物語を補強するために、過去の実績や数値のシミュレーションがあればいいのである。
銀行にしてみれば、自分たちが貸した資金によって新たな価値が生まれ、それによるリターンが自分たちにも還元されるというプロセスを理解できるかどうかが鍵となる。