最も重要なのは「価値を伝える」こと
「法人顧客」というと、これまで本書で例に出してきた一般消費者と異なり、何かまったく別の施策を打たなければならないと感じる人は多いが、「価値を伝える」点において、やることは同じだ。
たしかに法人が「買う」行為は、個人がビーフシチューを買ったり、バイト代を貯めて「チタタプ」をやりにいったりするのとは少し異なる。たとえば法人の場合、「買う」に至る意思決定者が何人もいることが少なくない。
だが、個人でも意思決定者が多い場合もある。つまりここでも課題は「二つのハードル」を越えてもらうことであり、変わらず「価格」は「価値」に従うのである。
法人顧客にとっての意外(?)な「価値」
石川県にある紙問屋「浜田紙業」。同社が取り扱っている商品は、同業他社でも扱える商品がほとんどで、「ネピアのティッシュ」など他でも購入可能な市販品も多い。差別化が難しく、いきおい価格競争になってしまいがちだ。だからこそ専務の浜田浩史氏はこう言う。
「自分や、働いている人たちを含めて浜田紙業だと考えたら、自分たちのキャラクターは真似されない」「商品の差別化はできなくても、会社の差別化はできる」
そして、自分が前面に出て積極的に自己開示するニューズレター「浜田紙業通信」を送ったり、取引先に送る請求書の茶封筒にひと言メッセージを書くといった、地道なコミュニケーション活動を行っていった。
ちなみに「ひと言メッセージ」とは、たとえば年明けに送る請求書の茶封筒に「旧年中は大変お世話になり、誠にありがとうございました。今年こそ好きなラーメンを気兼ねなく食べ歩ける世の中になればなあと思います」などのメッセージを添えること。書いているのは同社の事務スタッフだ。
この取り組みのきっかけは、社内にこうしたひと言メッセージが得意な社員がおり、彼女のメッセージがきっかけで顧客からハガキが届いたりしたことだ。それに社内が盛り上がり、全員で真似しようという話になった。
始めてみると、取引先から驚くほど反応があり、まだ一度も会ったことがない人から「〇〇さんは元気?」などという、個人宛てのメッセージが入るようになった。
「過去3回分の請求書の茶封筒やレターを捨てずに全部取ってある」という連絡が入ったこともあり、浜田氏も「特別な封筒ではなく、普通の茶封筒なので驚きました」と言う。
こんなこともあった。同社スタッフがニューズレターとひと言メッセージが入った請求書とともに商品を持参したところ、その会社の社長の奥さんがその場で自社の社員に、「こういうことが大事なんだよ。浜田紙業を見習わないと」と叱咤激励をしたのだという。さらにはその後、いつもの10倍もの見積もりがあり、取引成立に至ったそうだ。
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