一見ありふれた汎用品こそ「価値」の宝庫
「価格」とは、買う側が「どう価値を感じるか」に連動する。
お客さんが「価値」を感じれば、「価格」は二の次になる。
したがって、「値上げ」を受け入れてもらうためには、その「価値」を語ることが大事である。
しかし、この話をするとよく、大手企業の人からこう言われることがある。
「手作りの職人技術のようなものを持っている会社はいいのですが、うちのような汎用品を作っているところでは、価値を語ろうにも語ることがないんです」
だが、本当にそうだろうか。
私は今、大企業である明治グループの方々とお付き合いさせてもらっているが、そのご縁で、商品開発に携わる方々からいろいろなお話を聞く機会がしばしばある。
たとえば「ガルボ」というチョコレートは、表面が融けにくくベタベタしない。そのため、仕事中や勉強中に口に運ぶのに適している。それを実現するためにどのような技術が必要なのか、その背景にはどんな苦労があったのか。
あるいは「おいしい牛乳」なら、その「おいしい」を保つためにどんな工夫をしているのか。どれも目から鱗が落ちる話ばかりだった。
そう、大企業だから、汎用品を作っているから、こだわりがないなんてことはまったくないのだ。むしろ多くの人が関わっている企業ほど、実は語られない価値が眠っている可能性もある。
こうして「お客さんにとっての価値につながること」を伝えれば伝えるほど価値は上がる。たとえばそれは「目に見えないところへのこだわり」だったり、「商品誕生の秘密」だったり、商品にまつわる「歴史」であったりだ。
あとはそれをどう引き出し、どう伝えるかだけの話だ。
明治のような大企業になれば、自社商品が並ぶ売り場も相当な数になろう。しかし、やはり伝えるのである。
なぜなら、自社から見れば無数に近い売り場でも、その売り場でその商品に出会う一人ひとりのお客さんにとっては、一つひとつの出会いだからである。
顧客の懐の心配をするのは、むしろ失礼な話
大前提として認識しておいてほしいのは、「価値は伝わっているようで伝わっていない」ということだ。だから買う側としては「なぜ、自分はそれを買わなくてはならないのか」がわからない。
そして、「自分はこれをなぜ買うべきなのですか?」などと、お客さんのほうから聞いてくることはまずない。こちらから積極的に価値を伝えていかねばならないのだ。
その際に邪魔になるのが、「お客さんには予算がある」「高いものを勧めるのは失礼ではないか」という躊躇(ちゅうちょ)だ。
しかし、お客さんの懐を心配するのは失礼だと考えたほうがいい。自分にとって価値があると思えば、そのためにお金を使ってくれるのが現在の消費者だ。ただ、価値を伝えることに全力になればいいのだ。