商売人はかつて、「マスター」だった?
私がずっと以前から提唱しているコンセプトがある。それが「マスタービジネス」だ。最初にこのことを書いたのは、2001年刊の書籍『失われた「売り上げ」を探せ!』(フォレスト出版)だから、もう20年以上も前になる。
マスターとは「師匠」のことである。当時、「お客様は神様です」などということが盛んに言われていた。商売人はお客さんをそれくらいの気持ちで扱うべき、ということだが、少し間違えると「商売人は顧客より下の存在である」とも取られてしまう。
だが、それは違うのではないか。売る側と買う側とは本来、対等であり、むしろ商売人は自分の商売の分野においてお客さんよりずっと詳しい。一方、お客さんはお客さんで、自分の知るべきことを知らずに苦労していたり、もっと楽しい世界があるのを知らないまま過ごしている。
ならば商売人はそれを解決すべく、顧客に有益な価値を提供する「師匠」であるべきではないか。その意味においては、お客さんは「弟子」と呼ぶべき存在ではないか。そのような思いが込められたのが「マスタービジネス」というコンセプトだ。
実際、本来の商売の成り立ちとはそういうものであったのではないかと私は考えている。
商売は物々交換から始まったと言われているが、その最初の形は、海の近くに住む人に対して、山に住む人が「こんなにおいしいキノコがあるよ」と伝え、それに対して海の近くに住む人が「この魚はこうやって食べるとおいしいよ」などと、教え合いつつ交換が行われていたのではないだろうか。もちろん、それを実証するすべはないが、私はきっとそうだったのではないかと考えている。
マスタービジネスとは同様に、「お客さんがまだ知らない価値を教える」ことによって、お客さんから対価を得ること。「マスター」とは、言い換えると「価値の運び手」だ。
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