以前は「効率的な資産防衛手段」だった定期預金
資産形成の本質は「買うチカラ(購買力)」の維持・向上にあり、物価が資産価値に影響を与えます。今回は、多くの方が一度は預け入れたことがあるだろう定期預金について、インフレ率との関わりを考えます。
金融資産の運用では、毎年毎年の物価上昇のペースを金融資産の拡大ペースが上回らないと、資産価値は目減りしてしまいます。そのため、資産形成の成果は、インフレ率を上回ることが最低限求められます。
現状、日本の個人金融資産の内訳を見ると、現金・預金が5割超を占めています(2022年3月末時点)。
ここ数十年、現預金の金利はほぼゼロ%水準でしたが、インフレ率もゼロ%周辺で推移し、金融資産を現預金で保有していても購買力は低下しない状況でした。このことは、「金融資産の運用はインフレ率を上回る必要がある」という意識を希薄化させる環境が長く続いたことを意味します。
図表は1950年以降の日本の定期預金金利とインフレ率の変遷を示したものです。
定期預金金利がインフレ率を下回る局面は1970年代にあったものの、1950年から2022年6月までの約7割の期間(73年間のうち49年間)で定期預金金利はインフレ率を上回っています。
すなわち、長期的に金融資産を定期預金に配分していれば、インフレ率を上回れたことになり、資産形成の手段として定期預金を選択することは合理的であったと言えます。
定期預金金利が急低下した1990年代半ば以降を見てみましょう。金融機関の破たんが相次いだこの時期、日本銀行が金融緩和政策を加速させ、定期預金金利はほぼゼロ%に低下しました。
一方、物価についても、世の中のデフレ圧力は強く、インフレ率はマイナスに転じました。つまり、この時期も定期預金金利がインフレ率を上回る状態が継続したということです。
2000年から2009年にかけて定期預金金利の平均は0.2%に過ぎませんが、平均して物価が毎年0.3%ずつ下がっていたので、定期預金でもタンス預金でも、低下する物価のおかげで、実質的に購買力が高まった時期ともいえます。