値上げは私たちにとって「大きな転換点」
「値上げ」——。新聞やテレビでは、毎日のように身の回りのモノ・サービスの価格改定が報じられています。
日本では長らくデフレが続いたために、「物価は上がらない」「価格はだいたい昨日と同じ」という社会全体での共通認識が形成されてきました。しかし、昨年はじめから、その“常識”は変わりつつあります。
ところで、私たち生活者は「消費者」としての顔もあれば「(個人)投資家」としての顔もあります。
いま、生活者の多くは「消費者」として、スーパーマーケットやガソリンスタンドなどで物価上昇を体感し、家計への影響を実感しています。その一方で、「投資家」として物価上昇に向き合う必要性を感じている方はまだ少ないのではないでしょうか。
本来、物価は個人の資産価値に大きく影響をおよぼす重要な要素です。しかし、日本では物価が長期間にわたって安定していたことから、資産形成における物価の重要性が忘れられているように思います。物価が上昇基調に転じれば、これまでの資産形成の手法を見直す「大きな転換点」となるのです。
世界の投資家がインフレ動向に一喜一憂するなか、読者の皆さまがご自身の資産価値を守るために必須となる考え方をみていきましょう。
世界規模で進行するインフレ
世界的にインフレが進行しており、2022年10月時点の消費者物価指数の前年同月比は、経済協力開発機構(OECD)加盟国で+10.7%、米国で+7.7%となっています。日本はそれより低い水準ではあるものの+3.7%まで上昇しています[図表1]。
日本で物価上昇の兆しがみられる点については、円安の進行、日銀の超金融緩和政策、政府の積極財政のほか、生産年齢人口の減少による賃金の上昇、地政学リスクの顕在化などさまざまな要因が挙げられます。
歴史を振り返ると、インフレ率は「上昇」「低下」「安定」のサイクルを数十年単位で繰り返してきたことがわかります。日本の物価上昇が一時的なものなのか、持続的なものなのかは注視すべき点です。
インフレが資産価値に与える影響についてもみていきましょう。仮にインフレ率が年3%で継続した場合、現在の1,000万円の実質価値は20年後に約554万円になってしまいます[図表2]。
これは資産の「買うチカラ(購買力)」が半分近く減少することを意味しています。資産を預金で保有している場合、預金金利がインフレ率を上回る状態であれば購買力は低下しませんが、インフレ率が預金金利を上回る状態が続くと購買力は低下してしまいます。現在の定期預金金利(1年物)は、0.002%に過ぎません(2022年12月時点、メガバンク3行の金利)。