「大学病院が研究に使う患者データには必ず偏りがある」元東大病院の勤務医が、医学界の仕組みを解説

「大学病院が研究に使う患者データには必ず偏りがある」元東大病院の勤務医が、医学界の仕組みを解説
(※写真はイメージです/PIXTA)

環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導き、医療の質を向上させる新たな概念である「ペイシェント・ベイスド・メディスン(PBM)」は、従来の標準化された治療方針では見落とされてしまう、遺伝情報や患者個々の出身地や生活歴などの背景を考慮した治療を行うものです。東大病院に勤務後、現在は年間10万人を超す外来患者が殺到する眼科病院の理事を務める眼科医・宮田和典氏が、次世代医療の要と成り得る「ペイシェント・ベイスド・メディスン(PBM)」について詳しく解説します。

地域のかかりつけ医と大学病院では役割に明確な差が

膨大な数の実際の患者データを収集し、しかもそれを10年、20年単位の長期にわたって追跡することは、実は医学の研究において非常に大きな意味を持っています。

 

一般的に、研究といえば大学が中心になって行うイメージがあるかと思います。実際に、大学病院は「臨床(実際の患者に対する治療)」「研究」「教育」の3つが活動の柱とされていて、研究は学生の教育や患者の治療と並ぶ、重要な活動の一つです。しかし、研究のために集められた患者データには偏りがある可能性があります。

 

大学病院は、紹介状による医療の提供を基本としています。例えば、体調が悪くなった人がその分野の専門家に診て欲しいと思ったからといって、いきなり大学病院を受診することはできません。

 

正確に言えば、できなくはないのですが、かかりつけ医からの紹介状がない場合は、選定療養費という治療や診察代とは別の追加の費用が発生してしまいます。

 

これは、病院の役割分担を明確にし、限られた医療資源を効率よく活用しようという国の大きな方針に沿って行われているものです。

 

かかりつけ医は普段の体調管理を担い、かかりつけ医で対応できない難しい病気に限って、大学病院などの高度な医療機関が対応するというのが、昨今の医療の大きな流れとなっています。

 

こうした流れに則って2016年4月には健康保険法が改正されて、ベッド数200床以上の病院は、かかりつけ医からの紹介状を持たない患者から、5,000円以上の選定療養費を徴収することが義務付けられました。

 

このように医療の役割分担が明確になるにつれ、大学病院には非常に治療の難しい患者が集中する環境ができあがり、研究の点でも患者のデータは限られたものとなるのです。

10年20年にわたって患者を追跡できるのは、地域のかかりつけ医だからこそ

このほかにも大学病院を始めとする大規模な病院には、もう一つの特性があります。それは、一人の患者を長期にわたって治療し続けることがあまりできないということです。

 

大学病院は、高度な治療に限って行う病院ですから、高度な治療に区切りがついたら再びかかりつけ医のところへ患者を戻さなければならないのです。これは患者の「逆紹介」と呼ばれる仕組みです。

 

このように「紹介」と「逆紹介」の循環で治療を行っている大学病院では、長期にわたって一人の患者を観察し続けるということができません。

 

大学病院のように高度な治療を行うことのできる病院は全国でも限られていますから、その限られた医療資源を高度な治療までは必要としていない人に費やすわけにはいかないという事情もあります。

 

そのため、大学などからすれば、私の病院のように10年、20年にわたって患者を観察し続けたデータはたいへん貴重なデータとなるのです。これは私自身が大学病院に10年以上、勤めていた経験からも非常によく理解できます。

 

宮田 和典
宮田眼科病院 理事長
医療法人明和会 理事長

 

※ 本連載は、宮田和典氏の著書『診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部を抜粋し、再構成したものです

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

宮田 和典

幻冬舎メディアコンサルティング

患者の出身地や食生活によって、かかりやすい病気、重症度が変わる――。 環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導く。医療の質を向上させる新たな概念「PBM」とは? 1990年代にカナダで提唱された「エビデンス・ベイスド…

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