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相続時の遺産分割においては、民法で定められた「法定相続分」によって、相続人となる人、また、そのその立場によって分割される遺産の割合などが明確に決められています。多くの場合、遺言書があればそれに従うか、もしくは遺産分割協議で相続人同士が納得のうえ分割しますが、そうでない場合、法定相続分に則った遺産分割が行われます。自身もFP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

相続時、相続人の遺産の取り分を定める「法定相続分」

生徒:他界した母の遺産、これから遺族で分けようと思うのですが、分け方がよくわからなくて…。本で調べると、民法には「法定相続分」という割合が決まっているらしいのですが、この法定相続分とはどのようなものでしょうか?

 

先生:法定相続分というのは、亡くなった人の財産を相続するときに、各相続人の取り分として、法律上定められている割合のことですよ。亡くなった人との関係によって、法定相続分の割合は変わります。もっとも、法律上定められているといっても、遺言書があればそれに従うことになりますし、遺言書がなくても、遺産分割協議で話し合えばいいので、必ずしも法定相続分で分ける必要はないのですが…。話し合いの目安になる割合、あるいは、話し合いがまとまらずに裁判で争うときに使う割合だと考えたらいいでしょう。非常事態のときにしか使わないかもしれませんね。

 

★法定相続人の範囲についてはこちらをチェック

【相続】法定相続人の範囲と法定相続分を徹底解説

「法定相続人」とは、どのような立場の人なのか?

生徒:「亡くなった人との関係」というのは、どういう意味でしょう? よくわからないので教えてください。

 

先生:ここは丁寧に説明しますね。

 

●亡くなった人の配偶者は、必ず相続人(内縁関係・事実婚を除く)

先生:まず、亡くなった人の配偶者、つまり夫や妻は、必ず相続人となります。ただし、この配偶者というのは、市区町村役場に婚姻届を出した人に限ります。内縁関係や事実婚の相手は、相続人になりません。

 

生徒:なかには夫婦の年齢が親子かそれ以上離れているケースもありますが、結婚生活の期間の長さは関係しますか?

 

先生:いいえ、関係ありません。仮に、結婚届を出した翌日に結婚相手が亡くなっても、配偶者として相続人となりますよ。ミステリー小説などで、これを悪用した話が書かれることもありますが。

 

●子は当然相続人だが…「配偶者相続人」「血族相続人」の考え方

生徒:配偶者だけでなく、子どもも相続人になりますよね?

 

先生:もちろん、そうですね。今回は、あなたがお母様の相続人になったわけですね。亡くなった方の子どもはもちろん相続人になります。もし子どもがいない場合は、両親、兄弟姉妹も相続人になることがあります。法律用語でいうと、配偶者のことを「配偶者相続人」、それ以外の親族を「血族相続人」といいますよ。血族相続人がいる場合、配偶者と親族が、ともに相続手続きをおこなうことになります。

 

生徒:兄弟姉妹も相続人になる場合があるんですね。

 

先生:そうです。ただし、血族相続人には順位があります。1番目は当然ですが、亡くなった方の子ども。しかし、子どもがすでに亡くなっている場合、その子ども、つまり亡くなった人の孫がいれば、その孫が相続人になる。これを「代襲相続」といいます。

 

●養子も実子と同様に相続人

生徒:養子も子どもとして取り扱われて、相続人になるのですか?

 

先生:法律上、子どもというのは、実子であろうが養子であろうが、そこは関係ありません。養子も相続人になりますよ。養子は、育ての親と生みの親、どちらが亡くなった場合でも相続人となります。ただし、特別養子縁組をしている場合は、生みの親との親子関係が消滅するので、育ての親が亡くなったときにだけ相続人となるんです。

 

●これから生まれる子も相続人

生徒:では、もし、結婚してすぐにご主人が事故で他界してしまった場合で、奥様が妊娠中の場合、お腹の中の子も相続人になりますか?

 

先生:鋭い質問ですね。生まれる前の胎児も、相続人になりますよ。

 

●結婚していない相手との間の子でも、認知されていれば相続人

生徒:そうなんですね! では、結婚していない相手との間に子どもがいた場合はどうでしょうか? 相続人になりますか?

 

先生:その場合、亡くなった人が子どもを認知しているかどうかによります。認知しているときは相続人になりますよ。

 

●再婚相手の連れ子も、養子縁組していたら相続人

生徒:それでは、亡くなった人が再婚していた場合で、再婚相手の奥様に連れ子がいたとすれば、その子どもとは血のつながりがありませんが、相続人になるのですか?

 

先生:その場合、亡くなった人が連れ子と養子縁組をしていれば、その子は相続人になります。養子縁組していなければ相続人にならないので、その点は注意が必要です。

 

生徒:なるほど…。血のつながりがなくても、法律で親子関係が認められていれば、相続人になるということですね。

 

先生:その通りです。

 

●子のない人の場合、配偶者以外、親もしくは兄弟姉妹(甥姪)も相続人

生徒:最近は、子どもがいないご夫婦も多くなってきているようですね。その場合は、どうなるのでしょうか?

 

先生:子どもや孫がいないとき、血族相続人の2番目の順位は、亡くなった人の両親になります。ただ、一般的には親のほうが先に他界していることが多いはずですから、血族相続人の3番目の順位、つまり、亡くなった人の兄弟や姉妹が相続人になります。

 

もし、兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その子どもたち、つまり亡くなった人の甥姪が相続人となります。つまり代襲相続です。兄弟姉妹の年齢は亡くなった人と大きく変わりませんから、甥っ子や姪っ子が相続人となるケースのほうが多いといえます。

 

[図表1]相続人のイメージ

「法定相続分」は、どのように計算する?

生徒:法律で決められた相続人について、よく理解できました! 法定相続人が相続する割合についても、法律で決まっているということですが、どのような割合でしょうか?

 

先生:それが「法定相続分」として決められているものですよ。これも相続の順位によって変わってくるので、順番に説明しますね。

 

●配偶者と子どもの相続割合…それぞれ1/2

まずは配偶者相続人がいる場合。配偶者と子どもが相続人の場合は、配偶者が2分の1、子どもが2分の1を相続することになっています。子どもが複数いる場合には、この2分の1を、さらに子どもの人数で均等に分けることになります。子どもが2人なら、相続割合の2分の1を2人で分けるため、1人4分の1になります。同様に、3人いれば6分の1になります。

 

生徒:養子や認知した子どもも法定相続人と聞きましたが、そういった子どもの法定相続分も、実子と同様ですか?

 

先生:当然そうです。法律上の子どもは、実子も養子も関係ありませんし、結婚相手との間に生まれた子どもか、婚外子として生まれて認知した子どもかも関係ないよ。すべての子どもに均等に法定相続分が与えられています。

 

●子がなく、被相続人の親も相続人となる場合…2/3:1/3

生徒:では、子がなく、親も相続人となる場合、同じく2分の1の割合ですか?

 

先生:いいえ、違うんですよ。相続人が配偶者と父母の場合は、配偶者が3分の2、父母が3分の1となるんだ。両親2人ともいる場合は、3分の1を2人で分けるので、それぞれ6分の1ずつとなります。

 

●子がなく、被相続人の兄弟姉妹も相続人となる場合…3/4:1/4

生徒:実際は、亡くなった人の親より、兄弟姉妹が相続することが多いと伺いました。兄弟姉妹の法定相続分は、親の場合と違うのでしょうか?

 

先生:そうです。配偶者と兄弟姉妹の場合ですが、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。配偶者との関係性が遠くなるに従って、法定相続分が少なくなると覚えておきましょう。兄弟姉妹が複数いる場合は、やはり4分の1を均等に分けることになりますね。ただし、父母の片方だけが同じ兄弟姉妹の場合、これを「半血兄弟」というのですが、「父母の両方が同じ兄弟姉妹の法定相続分の半分になる」というルールがあります。

 

生徒:半血兄弟ですか! 親の再婚後に生まれた、父親違い・母親違いのケースですね?

 

先生:そうですね。あとは、相続を放棄する人がいる場合、相続放棄した人は最初から相続人ではなかったものとして扱われるので、その人を除いて法定相続分が計算されることになります。

 

●兄弟姉妹が他界し、その子(甥姪)が代襲相続する場合

生徒:兄弟姉妹がすでに他界しているケースも多いと伺いましたが、甥姪の法定相続分はどうなりますか?

 

先生:その場合は、兄弟姉妹と同じです。代襲相続となって、そのまま引き継がれます。

●子がなく、親・兄弟姉妹・甥姪もいない場合は、配偶者が100%相続する

生徒:甥姪もいない場合はどうなりますか?

 

先生:その場合は配偶者100%だね。

●配偶者が他界しており、相続人が子どもだけの場合…兄弟姉妹で均等割り

生徒:では、うちの母の相続の場合はどうなるのでしょう? 父はすでに他界しておりますので、相続人は私と弟の2人しかいません。

 

先生:配偶者がいない場合というのは、2次相続でよくあるケースなんだけど、子どもの法定相続分が100%になるね。弟さんと均等に分けることになるから、2分の1ずつということだね。

 

[図表2]法定相続分のイメージ

法定相続分を持たない人は相続できない?

生徒:先生、法律で決められた相続人以外は相続できないのでしょうか? 亡くなった人にとって、家族以上に深いつながりのある人もいますよね。

 

先生:法律上の相続で財産を受け取ることはできませんが、亡くなった人の遺言があれば、財産を受け取ることができますよ。亡くなった人が遺言書を書いて、財産を渡したい人を決めることを「遺贈」といいます。また、遺言で決めた分け方のことを「指定相続分」といいます。

 

★相続財産の取得割合はこちらをチェック

【法定相続分】民法で決められた割合、誰がどれだけの相続財産を取得できるか解説【FP3級】

遺言書がある場合、「法定相続分」はどうなる?

生徒:ちょっと待ってください! 遺言がある場合、法律で決められた「法定相続分」はどうなるんですか?

 

先生:遺言による「指定相続分」と、法が定める「法定相続分」では、どちらが優先されるかということですね? いい質問です!

 

生徒:財産を100%他人に遺贈されてしまったら、法律で決められた相続人が財産をまったく受け取れなくなってしまいませんか? 遺言書に〈愛人に全財産を残す〉と書かれるケースもあり得ますよね。

 

先生:じつはその場合も、法律でルールが決まっています。遺言書がある場合は「法定相続分」より「指定相続分」が優先されることになっているんですよ。法定相続人である配偶者や子どもがいるのに、遺言書で〈愛人に大きな財産を遺贈させる〉と書かれるケースなども、たまにあるようです。とはいえ、他人への遺贈で問題となるケースは、それほど多くありませんから、気にしなくていいでしょう。むしろ問題なのは、法定相続人の1人だけに極端に多く財産を渡すという遺言が残されているケースですね。

 

生徒:たとえば、長男が家を継ぐ・長男に会社を承継することで、長男が多めに財産を受け取るといったケースですか?

 

先生:そうですね。日本の場合、長子相続が習慣になっていたから、長男がほとんどの財産をもらい、それ以外の子ども、とくに娘にはほとんど遺産が渡されないケースが多く見られたようです。近年では、男女は平等であり、兄弟姉妹も平等に遺産をもらうべきだという考え方が普及してきているようです。

 

生徒:遺産のすべてを長男に遺すといった遺言書があったら、どうなってしまうのでしょう? ほかの子どもたちにとっては、とても不公平に思えますが…。

 

先生:そういうことが起こらないように、法定相続人には「遺留分」というものが、法律で定められています。法定相続人は、最低限の割合の遺産を相続できるように保障されていて、遺言で侵害されても、裁判で争えば、取り返すことができます。

 

生徒:なるほど! 遺言があっても、最低限の割合を保証されているのですね。では、具体的に遺産のどれくらいの割合でしょう?

 

先生:「遺留分」とはまさにその割合のことで、一定の相続人に対し、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の取り分のことをいいます。ここで、先ほどお話した法定相続分の計算が出てきます。遺産の分け方は、通常は遺言書や遺産分割協議で決まるので、法定相続分の計算を使うケースはほとんどないのですが、遺留分の話になると、法定相続分の計算が使われることになるんです。

 

生徒:なるほど。法定相続分の計算は理解しています。法定相続分が遺留分となるのでしょうか?

 

先生:配偶者・子ども・孫なら、遺留分は「法定相続分の2分の1」、両親なら、法定相続分の「3分の1」です。兄弟姉妹(甥姪)には、遺留分はありません。あなたの場合は、法定相続分が2分の1ですから、その2分の1ということで、4分の1が遺留分ということになりますね。ですから、お母様の遺産の4分の1は、必ず受け取ることができるんですよ。

 

生徒:そうなんですね。では、実際に遺言によって受け取った遺産が遺留分よりも少なかったときは…。

 

先生:そのときは、自分がもらえるはずの遺留分が侵害されたということになるので、遺留分侵害額の請求権が発生します。つまり、たくさん遺産を受け取った人に対して、遺留分侵害額に相当するお金の支払いを求めることができるんですよ。これを「遺留分侵害額の請求」といいます。ただし、家庭裁判所に対して遺留分侵害額の請求に関する調停を申し立てなければいけません。調停で合意できなければ訴訟になります。

 

生徒:そうなんですね。よくわかりました!

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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