(画像はイメージです/PIXTA)

相続の際、亡くなった方の銀行預金を承継・分割するにあたり、預金の引き出しや口座の解約、名義変更といった作業が必要になります。具体的にどのような手続きをおこなえばいいのでしょうか。自身もFP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

亡き母の相続、銀行預金はどうすれば…

生徒:先日他界した母親の相続手続きをおこなっているのですが、母親の銀行預金はどうしたらいいのでしょうか。教えてください。

 

先生:銀行預金の相続ですね。まず理解しておくべきなのは、お母様の銀行預金は「亡くなった日に相続財産」となることです。相続人が複数いる場合は、お母様が亡くなった日に、すべての相続人にとっての共有の財産となるんですよ。

 

生徒:銀行預金の相続手続きは、銀行の窓口でおこないますよね。相続発生を銀行に知られたときは、その口座が凍結されると聞きましたが、そうなんですか?

 

先生:遺産分割が確定する前の相続財産の保全を目的に、口座は凍結されることになります。入金や出金といった取引が一切できなくなります。

 

生徒:葬儀費用の支払いがあるので、それは困ります…!

 

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【所得税】所得税の計算の流れ!課税所得金額から損益通算・所得控除まで

葬儀費用等を故人の口座から引き出せる「仮払い制度」

先生:仮払い制度を利用すれば、例外的に、一部の金額だけ引き出すことができますよ。150万円が上限ですが、預金残高×3分の1×法定相続分の金額までは引き出すことができるようになっています。

 

生徒:それは助かりますね!

 

先生:ただし、仮払い制度を利用すると、相続放棄できなくなるので、その点は注意が必要ですよ。

 

生徒:なるほど…。その後は、どうすれば引き出しができるようになりますか?

 

先生:銀行預金を解約するか、名義変更が必要になります。

 

生徒:それって、すごく大変な手続きだと聞いたことがあるんですが…。

 

先生:確かに、解約と名義変更の手続きには時間も手間もかかりますし、必要書類を揃えるだけでも大変な労力が必要ですね。だから、自分で手続きするより、専門家に代行してもらったほうがいいですよ。

 

生徒:仮に私が手続きをおこなう場合、私ひとりの作業で解約や名義変更をすることは可能なのでしょうか?

 

先生:いいえ、相続がひとりで手続きできるというものではないんですよ。相続する人が複数いる場合、相続人全員の直筆の署名と実印と印鑑証明書が必要になるので、遠く離れた所に住んでいる相続人、これまでまったく連絡をとっていない相続人がいたとしても、ひとりひとりに連絡して対応してもらわないといけないんです。全員分を揃えるのに、相当な時間がかかるでしょうね。

 

生徒:遺産分割協議に合意できなければ、いつまでたっても銀行預金の相続手続きが進まないですよね。ちょっと考えただけで頭が痛くなります。

 

先生:そうですね。亡くなった方の預金口座が複数の金融機関にある場合、すべての金融機関で手続きが必要となるから、本当に大変なんですよ。

相続時の銀行口座の解約手続き→預金引き出しの流れ

生徒:それでは、遺産分割に相続人が合意して、相続人全員からの必要書類が集まったとして、そのあとの手続きはどうなるのですか?

 

先生:選択肢は、解約するか、名義変更するかの2つしかありません。どちらにするつもりですか?

 

生徒:まだ決めていません…。私はインターネット銀行を使うことが多いので、解約したほうがいいかもしれません。解約する場合の必要書類は何でしょうか?

 

先生:遺言書があるか、遺産分割協議書があるかなどで、必要な書類が違ってくるので、銀行に電話して確認する必要がありますね。ほとんどの銀行では相続手続きを専門とする部署があるから、丁寧に教えてくれますよ。郵送のやり取りだけで手続きが完了するケースもあります。解約に必要な書類ですが、亡くなった方の預金通帳とキャッシュカードはありますか?

 

生徒:探し回って大変でしたが、どちらも見つかりました!

 

先生:それはよかったですね! 遺言書はどうですか?

 

生徒:いいえ、遺言書はありませんでした。そのため、相続人で遺産分割協議をおこなう予定です。

 

先生:それなら、書類として必要なのは、遺産分割協議書、お母様の出生から死亡まで連続した戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、実印と印鑑証明書、ということになりますね。お母様の戸籍謄本については、法務局で法定相続情報一覧図を作ってもらい、その写しを代わりに提出することも可能ですよ(『亡き母の相続手続き「出生から死亡までの戸籍謄本」を求められ困惑…入手の方法は?』参照)。

 

生徒:解約した場合、現金で引き出すことになりますか?

 

先生:解約したときの預金の払い戻しの方法には、現金で受け取る方法と相続人の口座に振り込む方法があるんです。多額の現金を引き出すのは危ないですから、振り込んでもらうことが一般的ですね。

 

生徒:私のインターネット銀行の口座に振り込んでもらうことにします!

ゆうちょ銀行の残高は、ゆうちょ銀行にしか振込めない

先生:1つだけ注意点があります。ゆうちょ銀行についてです。お母様はゆうちょ銀行に口座を持っていましたか?

 

生徒:通常貯金の口座が1つありました。

 

先生:その場合、ゆうちょ銀行の残高は、ゆうちょ銀行にしか振込みできないんですよ。

 

生徒:えっ、そうなんですか! 私は口座を持っていません。どうすればいいでしょう。

 

先生:あなたがゆうちょ銀行に口座を持っていなのなら、新たに口座を開設するか、もしくは現金で引き出す必要がありますね。

相続時の「銀行預金の名義変更」の方法

生徒:わかりました。それならゆうちょ銀行の口座は解約しないで、名義変更するだけでいいかもしれません。名義変更する場合の必要書類は、解約するときと同じですか?

 

先生:基本的には同じですね。ただし念のため、前もって金融機関に確認しておいたほうがいいですよ。

 

★死亡後の銀行預金の解約についてはこちらをチェック

凍結されても150万円までは引き出せるって?! 名義変更の手続き方法も解説

銀行預金の解約や名義変更…期限はある?

生徒:銀行預金の解約や名義変更には期限はありますか? 必要書類を揃えるのに時間がかかりすぎて、期限切れになってしまうことが心配です。

 

先生:基本的に期限はありません。ただ、相続税の申告と納税には期限があって、相続発生日または相続発生を知った日の翌日から10ヵ月以内だから、早めの手続きが必要ですね。

 

生徒:大変ですね…。やっぱり、銀行預金の解約や名義変更は専門家を頼った方がいいでしょうか…。

 

先生:そうですね。多少の費用はかかりますけれど、相続の専門家に手続代行を依頼したほうがいいかもしれませんね。

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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