「仮説力」を高めるための2つのポイント
これは、「仮説力」とも言い換えることができます。「仮説を立てる」と一言に言っても、不確実な現代社会を生き抜くためには仮説の精度が問われます。緻密な仮説を立てれば、それが荒海をゆくコンパスになり、結果として地図を書き換えられるのです。
コンパスが必要なのは、たとえば大企業やそのトップ、政治的なリーダーたちだけに限りません。いまからの時代、僕たち個人個人もコンパスが必要です。僕たち1人1人のコンパスは、「自分の人生をどのように生きていくか」という指針です。
では、どのようにすればコンパスを、しかも精度の高いコンパスを持てるようになるでしょうか? 精度の高いコンパス=緻密な仮説を立て、地図を書き換えるためには、何より情報が必要です。まずはたくさんの情報をインプットする。ただ、それだけでは仮説は立てられません。
たくさんの情報を組み立て、仮説を立てるには、抽象化する能力が必要になってきます。何かを分析することになってデータを集めた。データ量に不足はなかった。でも「分析」が間違えていた、ということがあります。この「分析が間違えていたようだ」を掘り下げると、データを抽象化する力が足りなかったという場合が多いのです。
たとえば「雨の日は晴れの日に比べて傘が5倍売れる」というデータがあったとして、「じゃあ長靴も売れるはずだ」と仮説を立てるのは間違いではないかもしれないけど、傘ほど売れない気がしませんか? 傘は雨が一定量を超えるとどうしたって必要ですが、長靴はなくてもなんとかなる場合のほうが多いからです。
「雨の日は晴れの日に比べて傘が5倍売れる」なら、「傘を忘れたり、なくしたりする人は意外と多い」とも読み取れます。だったら「買うより安い値段で傘を貸し出して、どこかで回収するシステムをつくれば人の役に立つし儲かりそうだ」と考えるのが、抽象度の高い仮説を立てるということです。
最新の脳科学の研究で、抽象化思考においては、価値判断に関わる脳領域が優先的に使われていることがわかっています。
また、この研究では、視覚情報が抽象化の鍵になることも明らかにされています。この研究では、抽象化思考を促進する要因を見ているときの脳活動にだけ報酬を与えるトレーニングを行なったそうです。その後、同じ実験を再度行なったところ、報酬が与えられたときと同じ視覚情報を得た場合に、抽象化思考の際と同じ活動が増加したそうです。
つまり、仮説力を高めるには、次の2つが重要です。
・抽象化の能力を鍛えること
そして、抽象化のトレーニングには、「目で見て選ぶ」という訓練が有効なのです。
茂木 健一郎
理学博士/脳科学者