昨年の金融市場を振り返って
――昨年の金融市場をどう見ていますか?
荒磯「根っこには、アメリカの利上げが市場の混乱を招いたことがあると思います。利上げの何がよくなかったのでしょうか。図表1はアメリカの政策金利の推移です。
ここにFRB(アメリカの中央銀行)が送るメッセージが隠れています。たとえば直近2020年には政策金利が鋭く下がったのがわかります。景気が悪くなるかもしれない、コロナで消費が落ち込むかもしれないというときに金融市場を支えるんだというメッセージがここにあります。
ところが、2022年は急速に利上げが進みました。金融市場が多少崩れても気にしない、ほかに大事なことがあるからごめんね、というメッセージがここに込められています」
――これまでのFRBの姿勢を期待していた投資家からすると、株価が下落しても金融引き締めの姿勢を変えないというのは驚きですよね。
荒磯「そうですね。このグラフは2006年からの推移ですが、リーマン・ショック発生時などはものすごい勢いで利下げをしています。このときのように、金融市場が崩れればそれに対応してどんどん利下げをするというのが、リーマン・ショック以降15年近く続いているパターンです。
しかし、今回はどんなにマーケットが荒れても利上げをやめないということで、態度がまったく異なっています。これに対し、マーケットは狼狽し、そして絶望したのだと思います」
――アメリカではいったん利上げに踏み切ったかと思ったら、かなり急速なペースで、かつ大幅な利上げを進めている印象です。株価も下落して景気減速も懸念されるなか、利上げはまだ必要なのでしょうか。
荒磯「まずはなぜ利上げをしているのかを考えないといけません。アメリカの中央銀行は政策目標が2つあります。1つは物価の安定、つまりインフレ対策です。もう1つが雇用の最大化です。こちらが労働市場の拡大、ひいては景気です。
そしていま中央銀行が取り組んでいるのは、この物価の安定のほうです。言葉を変えると、雇用や景気はあと回しということです」
――景気が減速してしまったら、給料やボーナスが減ってしまうような気がするのですが。
荒磯「そうですね。ただしこれはちょっとトリックがあります。2022年というのは、アメリカの中間選挙の年でした。
インフレは全員に影響します。スーパーに行かない人はいません。そして、スーパーにあるものが値上がりしてしまうと、全員に影響するのがインフレです。
景気対策、たとえば株価対策をしても、株を持っている人しか助かりません。そこで景気対策、財政対策をしても、インフラや公共事業などの関連産業の人しか助かりません。選挙の年でしたので、できるだけ多くの人にリーチしたいということで、インフレが最優先課題なのです」
――より多くの人が恩恵を受けるのがインフレ対策というわけですね。
荒磯「そうですね。財政対策や株価対策よりも、全員を苦しめるインフレ対策に、より政治的な注目が集まっていました」