円安の背景にある日米の「金利差」
日米で対極的だった金利への見通し
――日本の通貨当局はゴールデンウィーク中の為替介入で、円安への動きに歯止めをかけようとしました。そもそも、この円安には、どういった背景があるのでしょうか?
荒磯「日米の金利差が影響しています。過去5年ほどを振り返ると、米ドル円レートと日米金利差はリンクしていることがわかります[図表1]。
さらに足元の円安は、日米の金利への見通しが対極的だった点が影響しています。日本では3月に日銀がマイナス金利を解除しましたが、これは利上げに換算すればたった1回にすぎません。かたや米国は、根強いインフレにより想定されていた利下げサイクル入りの気運が薄れ、期待していた数回の利下げがなくなりました。日米金利差の縮小が不発に終わったわけです。
今回の為替介入は日米が足並みをそろえた協調介入ではなく、日本単独の対応と思われます。勢いとして米国側の動きが上回り、円安基調が止まらない状況と表現できます」
――「米国は利下げを控えている」という安心感は、株式相場を下支えする要因の1つです。実際に利下げを始めるには、どういった前提が必要になりそうでしょうか? 中東情勢が緊迫し、物価が高止まりしてしまうのではないかと考えてしまいます。
荒磯「ご指摘のとおり、地政学的リスクの高まりによって、エネルギー価格が上昇するリスクは常につきまといます。そして今年は11月に米国大統領選挙が控えています。利下げという行為は“現政権を応援する”という思惑を生みがちで、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は秋からの動きが取りづらいのではないかと市場では見られています。
このモヤモヤした感じが、利下げを遅らせている理由だと考えます。FRBとしては利下げを説明できる明確な根拠が欲しいところですが、その判断材料がインフレ率の低下。それを待っているのが現状です」
――円安も手伝い、海外での物価の高さは、先日オーストラリアを訪れた際にも肌身に感じました。カフェでのコーヒーは1杯で700円近い価格でした。
荒磯「カフェでのコーヒーとなると原価は10%に満たないでしょう。その多くが店舗運営に係る人件費です。米国のインフレも、人件費の落ち着きが今後の注目ポイントになります。
[図表2]は、米国のインフレ率を要因別に分解したものです。2年前までは原材料価格やエネルギー価格、サービス価格ともに上昇していたのですが、いまはサービス価格、つまり人件費の上昇に留まっています。
労働市場ではすでに賃金の先行指標である離職率が低下してきており、このことからも、なんとか年内には利下げが行えるのではないかと見ています」