タイとインドネシアの差が開いたワケ
タイ外交の古典的なスタイルは、どんな状況でも中立を保つことであり、保守的なアプローチを維持することに長けている。そのおかげで、過去には多くの国際紛争から完璧な解決策を見出すことができたのもまた事実だ。
しかし、新しい世界秩序では、国際情勢における文脈が圧倒的に変化している。タイは、これまでと同じ受動的な姿勢のために、国際社会での力を失いつつある。その結果、ASEANにおけるリーダーとしての役割を失ってしまったのだ。
タイはAPECサミットのホスト国であったにもかかわらず、この絶好の機会を活かすことができなかった。一方、G20のホスト国であるインドネシアは、この絶好の機会に頭角を現してきた。アピシット氏の考えでは、タイとインドネシアでは国際的な場における立ち回りの姿勢がまったく違うという。
「タイとインドネシアの外交政策への認識は、明らかに対照的です。インドネシア大統領は、ロシアとウクライナ両首脳に直接会いに行きました。彼は何としても、問題解決のための仲介役を果たしたいということを、多かれ少なかれ示そうとしました。
それを見ていた世界の人々が、彼が本当に問題を解決できると予想したかというと、私はそうは思いませんし、彼に聞けば、それは非常に難しいことだと認めると思います。ですが、そうすることが適切だと見抜き、その行動が結果として評価されることになりました。そして現在、インドネシアの国際的な地位は卓越しています」
官僚が考えているのは「自分たちの利益」…
一方、パニタン・ワッタナーゴーン博士は、タイが外交政策において積極的なアプローチをとることを妨げているのは、「国内政治の不確実性」であり、体制側がすべきことは、タイ国民の要求に耳を傾け、その福利を補完するために外交政策を適応させることだと指摘する。
「自由貿易地域や協定に参加するためには、我々(タイ)が利益を得ることが確実でなければなりません。それには、国家やタイ国民の利益が明確に計算されている必要があります。これまでは、官僚がそうした利益の計算をしてきました。
しかし、これまで官僚が国家戦略を立てる際、自分たちの利益になることばかりを考え、自分たちの要望と極力合致するよう取り組んできました。そしてそれは、国民の希望とは明らかに異なります。例えば、ロシアの安い原油価格の恩恵を受けているのはインドであり、私たちはその恩恵を受けていません。なぜ、タイ人はその恩恵を受けられないのでしょうか?」(パニタン氏)
さらに、アット博士は「タイはロシアとウクライナの間の大きな紛争を受け入れる準備をしておくべきだったが、残念ながらそうすることができなかった」と述べた。また、近年における他の危機にもうまく対処できず、予見される変化から利益を得る機会を失ってしまったと話す。
「ラオス−中国鉄道が5年以内に完成することはすでに分かっていたのに、タイはその準備を怠っていた。おかしいと思いませんか? 他にも何か損失があるのでは? この件で、経済的なチャンスを失いました。結局は、彼ら(他国)がすでに完成させたものを後追いする国となってしまったのです」(アット氏)。