(※写真はイメージです/PIXTA)

「社会人のたしなみとして決算書を読めるようになりたい」と思っていても「実際には難しい」という声をよく耳にします。しかし、専門家を目指しているわけではないビジネスパーソンに必要なのは、会社が「儲かっているか」「つぶれないか」というシンプルな2つの要点を、決算書から読み取れるようになることです。銀行員、コンサルタント、M&Aアドバイザーと「決算書を読む」仕事に約30年携わってきた前田忠志氏が、わかりやすく紹介します。

 

自社株買いも純資産のマイナス項目に

会社が株主と取引をした場合は、収益・費用にはなりません。でも、純資産は変わります。会社が増資をして、株主からの出資を受け入れると、純資産は増えます。配当金や自社株買いによって、株主への支払いがあると純資産は減ります。

 

自社株買いというのは、たとえば、NTTがNTTの株式を買うことです。会社が株式を取得して現金を支払うという取引は、増資とは逆の取引になりますね。自社株買いをすると、BSでは「自己株式」として表示され、純資産のマイナス項目になります。

 

[図表3]

債務超過は黄色信号

純資産が減った結果、純資産がマイナスになる場合があります。資産より負債のほうが多くなるのです。これを債務超過といいます。かりにBSに計上されている資産をすべて同額の現金に変えて負債の返済にまわしても、負債をすべて返済できないということなので、危険な状態であることが多いです。

 

[図表4]

東芝はいかにして債務超過から立ち直ったのか?

東芝は、不正会計問題や原子力事業の損失により2015年3月期から3期連続で純損失を計上し、2017年3月末に3,000億円の債務超過になりました。上場企業は、2年連続で債務超過だと上場廃止になってしまいます。

 

東芝は、次の期までに債務超過を脱すべく、手を打ちました。債務超過を解消するには純資産を増やさなくてはなりません。どうしたでしょうか。東芝は、まず、純利益を計上することを考えました。といっても、普通に経営していて計上できる利益では、多額の債務超過を解消することはできません。

 

そこで、事業を売却することを考えました。それも、東芝の中核事業の1つであるメモリ事業の売却です。メモリ事業を売却すれば、1兆円以上の売却益を計上することができ、債務超過を脱することができます。

 

2017年9月には投資ファンドと売却契約を締結しました。ただ、売却には各国当局の承認が必要です。承認が間に合わないと売却は実行できません。そこで、東芝は、確実に債務超過を解消するため、増資により純資産を増やすことにしました。

 

といっても、経営の危機にある東芝の増資を引き受ける投資家も簡単には見つかりません。増資を引き受けたのは海外の投資家でした。カネも出すけど、クチも出す、いわゆる「物言う株主」です。

 

この増資のために260億円もの発行費用をかけ、6,000億円の増資に成功し、債務超過を脱することができました。メモリ事業の売却は2018年3月期には間に合わなかったのですが、翌期には実現して1兆円の売却益を計上しました。

 

[図表5]

 

同じころ、パソコン事業も売却しました。東芝は、世界ではじめてラップトップパソコンを発売し、ノートパソコンで世界一の座を続けていたこともありました。「ダイナブック」というほうがピンとくる人もいるかもしれないですね。

 

東芝は、かつては、企業向けも消費者向けもてがける総合電機メーカーでしたが、多くの事業を売却し、今は、重電・インフラ機器主体のメーカーとなりました。

 

前田 忠志

公認会計士

 

※ 本連載は、前田忠志氏の著書『「会社の数字」がみるみるわかる! 決算書のトリセツ』(実務教育出版)から一部を抜粋し、再構成したものです

「会社の数字」がみるみるわかる!決算書のトリセツ

「会社の数字」がみるみるわかる!決算書のトリセツ

前田 忠志

実務教育出版

「決算書を読めるようになるのは、実は、結構簡単です。英語、IT、会計がビジネスパーソンの3大スキルなんて言われていますけれど、コスパが高いのは、会計です。」 決算書の読み方に関する本は数多くありますが、途中で挫折…

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