「社会人のたしなみとして決算書を読めるようになりたい」と思っていても「解説本を読んだけれど難しくて実践的ではなかった」という声をよく耳にします。しかし、専門家を目指しているわけではないビジネスパーソンに必要なのは、会社が「儲かっているか」「つぶれないか」というシンプルな2つの要点を、決算書から読み取れるようになることです。銀行員、コンサルタント、M&Aアドバイザーと「決算書を読む」仕事に約30年携わってきた著者が、キャリアのなかで確立した「決算書の読み方」のエッセンスをわかりやすく紹介します。

平均年収ランキング上位常連企業の利益の上げ方

キーエンスは、ファクトリー・オートメーション(FA)用センサーを開発・販売している会社です。企業向けの商品を扱っているので、一般消費者にはあまりなじみがないかもしれません。

 

有価証券報告書には従業員の平均年収も開示されていますが、キーエンスは、全上場企業の平均年収ランキングでの上位の常連の会社としても知られています。

 

2021年3月期の平均年収は1,752万円でした。営業利益率はなんと50%以上。粗利率ではなく営業利益率が50%以上なのですから、ものすごい高収益です。社員の稼ぎも、会社の稼ぎもどちらも高い。

 

キーエンスがかかげているコーポレートポリシーの1つ目は「最小の資本と人で最大の付加価値をあげる」です。「お客様第一主義」をトップにかかげる会社は多いですが、いきなり「付加価値」という会社は他では聞いたことはありません。

 

キーエンスの主力商品は、生産現場の生産効率をあげるようなセンサーで、これを、代理店などは使わずにお客さんに直販しています。キーエンスの営業マンは、みずからお客さんのところに出向き、お客さんの問題解決につながる提案をするコンサルティング営業をしています。

 

商品の約7割が世界初、業界初。お客さんのほうも、生産効率があがるという目に見えた効果がわかるから導入するのです。

 

キーエンスは、工場をもたないファブレスメーカーです。生産は協力工場に外注しています。スマイルカーブという考え方があります。

 

電子産業などグローバル化が進むなか、開発、生産、販売という流れのなかで、生産の付加価値が下がり、開発と販売の付加価値が高くなっています。キーエンスは開発と販売に集中することで、高い付加価値を実現しているのです。

 

[図表4]

 

また、キーエンスは、たびたび決算変更をする会社としても知られています。2010年以降では、2013年3月期、2016年3月期、2017年3月期に、いずれも1年を3ヵ月と9ヵ月に分ける決算期変更をしています。3ヵ月と9ヵ月に分けて、次の年はまた1年決算に戻しているのですが、このようなことをする理由は、法人税の節税です。

 

法人税の税率は、たびたび引き下げられていますが、下がった税率が適用されるのは、4月1日以降にスタートする決算期からです。キーエンスは、3月21日決算ですので、1年決算だと、1年間は下がる前の税率になります。

 

そこで、3ヵ月で決算期変更して、3ヵ月だけ下がる前の税率を適用し、あとの9ヵ月は下がった後の税率を適用できるようにしているのです。利益額が大きいので、税率によるインパクトも大きいがゆえのことでしょう。こういったところにも、合理性を重視している企業文化が感じ取れます。

 

[図表5]

 

前田 忠志

公認会計士

 

※ 本連載は、前田忠志氏の著書『「会社の数字」がみるみるわかる! 決算書のトリセツ』(実務教育出版)から一部を抜粋し、再構成したものです

「会社の数字」がみるみるわかる!決算書のトリセツ

「会社の数字」がみるみるわかる!決算書のトリセツ

前田 忠志

実務教育出版

「決算書を読めるようになるのは、実は、結構簡単です。英語、IT、会計がビジネスパーソンの3大スキルなんて言われていますけれど、コスパが高いのは、会計です。」 決算書の読み方に関する本は数多くありますが、途中で挫折…

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