名古屋のとある不動産会社は、事業拡大の一環として自社雑誌「アパートニュース」を刊行し、業績を伸ばしました。雑誌創刊を手掛けた社長はそれに飽き足らず、業務の効率化・IT化を画策します。社長の片腕となっていた編集長は「製作費3割減」を掲げて奮闘し成果を上げますが、時代はさらに、紙媒体からWeb媒体へと移行し始めていました。

デジタルがもたらした「一石三鳥大改革」

編集作業のデジタル化に関しても中心となって頑張ってくれた、三代目編集長のN氏は、APN(アパートニュース)のデジタル化の意味を次の3つと定義し、自ら「一石三鳥の大改革」と呼んでいました。

 

1 編集期間の短縮化

2 雑誌制作経費の大幅削減

3 これから本格化するウェブ検索への準備と増強(間取図と写真のデジタル化)

 

特に制作経費の削減については、「『アパートニュース』制作経費1億円削減計画」と銘打って、この3大改革を当時の役員に話していました。役員からは「3割も制作経費を削減するなどできるはずがない。やれるものならやってみろ」と言われていましたがN氏は諦めませんでした。

 

1996年にデジタルデータでのやり取りを前提として、複数の印刷会社にコンペをもち掛けました。各社から見積りを提出してもらい競合させるのです。

 

創刊時から取引のある印刷会社のほか3社に声を掛け、いちばん安い金額を提示してきたT社に決めました。

 

実はT社の担当課長は3年以上前から、足しげく私たちの会社に営業に来ていました。出版社の少ない名古屋において、私の会社のように定期的な刊行物を発行している会社は取引先として理想的でした。

 

編集長のN氏のところに3〜4カ月に1度の頻度で顔を出しており、N氏もその紳士的な態度を高く評価していました。数多くのセールスマンを見てきたN氏を唸らせる人物はなかなかいません。

 

1997年3月より「アパートニュース」の印刷はT社に変わり、1年後の1998年3月末には、表紙とカラー広告の2ページを除くすべてのページがデジタルデータでのやり取りとなりました。その結果、以前は合併号を含めて年間23号刊だったものを、合併号をなくして年間24号に増やしたうえで、印刷経費は年間3000万円ほど削減できたのです。

 

また、編集プロダクションへの支払額減額交渉を継続し数年をかけて年間8000万円の削減につながりました。1999年にN氏はAPNから私たちの会社のグループ会社の1つに異動しましたが、編集期間はデジタル化以前の1/2に短縮され、雑誌の制作経費は2/3に圧縮、ウェブ物件の内容も充実しました。こうして「一石三鳥の大改革」は実現し、APNの利益の大幅な向上と次なる飛躍に大いに貢献したのです。

紙媒体衰退とウェブへの移行

しかし、1992年を頂点にして「アパートニュース」の隆盛にも陰りが見えてきました。その後世の中はインターネットおよび携帯電話の時代へと進化し、若者を中心に活字離れが進んで紙の本や雑誌が売れなくなっていったからです。1998年からは「アパートニュース」の売上の下げ幅が少し大きくなりました。

 

ただ私たちの会社はパソコンが普及するかなり前の1987年からデジタル化の準備を進めていたおかげで、社会の急速な変化に慌てることなく対応することができました。物件検索ができる「アパートニュース」のホームページは1997年10月に、「アパートニュース」の携帯サイトは1999年8月に開設し、紙媒体との同時展開を行いました。

 

また2004年1月からはアットホームのポータルサイトに、2008年12月からはホームズのサイトに、2011年8月からはスーモのサイトにも物件情報の掲載を始めています。

 

しかし、2013年には「アパートニュース」の売上が過去最低に落ち込んでしまいました。これに対し筆者の長男で当時株式会社ニッショーの取締役だったHが「アパートニュース」の休刊と自社ウェブサイトの強化を進言してきたのです。

 

筆者は2013年9月に彼をアパートニュース出版株式会社の代表取締役社長に任命し、彼は自社ウェブサイトの強化策に乗りだし、翌年にはさっそく社名を株式会社ニッショー.jpに変更しました。そして「アパートニュース」は2014年3月15日発売号をもって37年の歴史に幕を下ろしました。

 

売上が落ちていたとはいえ、昔からの愛読者からは「やっぱり紙の『アパートニュース』がいい」との声をもらい、休刊を惜しんでもらえたことは最後のはなむけでした。

 

 

加治佐 健二
株式会社ニッショー 代表取締役社長

 

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

加治佐 健二

幻冬舎メディアコンサルティング

メーカーから転職して1976年に28歳で営業職として入社し、充実した日々を送っていた筆者。 その矢先、突然社長と常務から呼び出され「東海エリア初の賃貸住宅情報誌の創刊」を命じられたのです。 そして右も左も分からな…

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