(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●海外資本に依存する新興国は米ドル建ての債務も多く、米ドル高が進むと実質的に債務負担増。

●主要新興国の債務リスクを対外債務・外貨準備比率、経常・財政収支のGDP比率などで確認。

●アジアの債務リスクは相対的に小さく、新興国全体で深刻な債務危機発生の恐れも小さいとみる。

海外資本に依存する新興国は米ドル建ての債務も多く、米ドル高が進むと実質的に債務負担増

新興国は一般に、国内経済が十分に発展しておらず、民間部門も政府部門も資本不足の傾向にあり、企業の設備投資や政府の公共投資などは、海外からの借り入れ(海外資本)に依存するケースが多くみられます。海外資本への依存度が大きくなると、対外債務残高が増加し、これが政府部門であれば、財政赤字が拡大します。また、国内の貯蓄投資バランスが投資超過(貯蓄不足、すなわち資本不足)となれば、経常赤字になります。

 

つまり、対外債務残高と双子の赤字(財政赤字と経常赤字)の金額が大きい新興国は、海外資本への依存度が高く、有事が発生した場合の資本流出リスクを常に抱えていると考えられます。また、対外債務は米ドル建ても多いため、為替市場で米ドル高が進むと、新興国は債務返済の際、より多くの自国通貨が必要となり、実質的な債務負担は増加することになります。

主要新興国の債務リスクを対外債務・外貨準備比率、経常・財政収支のGDP比率などで確認

ここ数年、新興国の米ドル建て債務は、コロナ禍での財政支出などから、増加傾向にあります。国際決済銀行(BIS)による、新興国全体の米ドル建ての債務残高は、2018年3月末時点で約3.6兆ドルでしたが、2022年6月末時点では約4.2兆ドルに達しています(図表1)。また、米国では2022年3月から大幅な利上げが実施され、米ドル高が進行していることから、市場では新興国の債務危機を心配する声も聞かれます。

 

[図表1]新興国の米ドル建て債務残高の推移

 

そこで以下、どの新興国の債務を注意してみておくべきか、確認して行きます。具体的には、①対外債務残高・外貨準備預金残高比率、②経常・財政収支の対GDP比率、③クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率、という3つの項目をチェックします。①は対外債務残高が外貨準備預金残高で賄われているか、②は双子の赤字か否か、③は債務不履行の懸念はどの程度か、を判断するものです。

アジアの債務リスクは相対的に小さく、新興国全体で深刻な債務危機発生の恐れも小さいとみる

主な新興国10ヵ国について、3つの項目をチェックし、まとめたものが図表2です。

 

[図表2]主要新興国10ヵ国の債務状況

 

①では、フィリピン、ロシア、タイを除く7ヵ国の対外債務残高が外貨準備預金残高の2倍以上となっています。②では、ブラジル、メキシコ、フィリピン、タイ、トルコの5ヵ国が双子の赤字となっています。また、③では、アルゼンチンの保証料率が極めて高く、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、トルコも比較的高い数字となっています。

 

以上より、中南米諸国、南アフリカ、トルコの債務状況は、注意が必要である一方、アジア諸国の債務リスクは相対的に低い様子がうかがえます。仮にこの先、米国の利上げが想定外に長期化すれば、新興国の債務リスクが顕在化する可能性は高まると思われますが、弊社は今後、米国の物価の伸びは緩やかに鈍化し、2023年3月には利上げ一服を予想しており、新興国全体で深刻な債務危機が発生する恐れは小さいとみています。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米ドル高が進行中だが…「新興国の債務リスク」について考える【ストラテジストが解説】』を参照)。

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

 

 

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●当資料は、情報提供を目的として、三井住友DSアセットマネジメントが作成したものです。特定の投資信託、生命保険、株式、債券等の売買を推奨・勧誘するものではありません。
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