シニア向けで「新しいこと」をしている企業は少数
『80歳の壁』は『70歳が老化の分かれ道』以上のヒットとなりましたが、その成功は二つのことを教えてくれました。
一つは、発売時点からアマゾンでも上位に入ったことで、70~80代の方もECでの書籍の購入という「新しい消費のスタイル」に馴染んでいることがわかったことです。
もう一つは、ヒットした両書の内容から得た発見です。両書のテーマは単なる健康や医療といった「長生きのコツ」ではなく、「長く生きるならば元気に充実した人生を楽しもう」というものでした。そのメッセージが共感を呼んだのは、シニアが「高齢期にこそ人生を楽しみたい」と思っているからにほかなりません。
とすると、シニア向けの商品やサービスを提供している企業の方も、思い込みを取り外すべきではないでしょうか。
介護ビジネスや健康といった分野だけでなく、グルメ・旅行・エンタメといったところに、人口の29%を占める高齢者の市場を開拓できたら、この上ないビジネスチャンスとなるでしょう。
先見性のある会社はすでに着手しています。ジャパネットたかたは購買層が中高年以上の方々とあって、いちはやく豪華客船の旅「ジャパネットクルーズ」を企画、毎年好評を得ているようです。
旅行と言えば、星野リゾートもおそらく、高齢者を大きなターゲットとみなしているでしょう。私もしばしば宿泊しますが、客層の多くをシニアの方々が占めていることに気づきます。シニア向けと明確に打ち出してはいなくとも、辣腕社長の星野佳路氏がこの流れを意識していないはずはないと私は見ています。
しかしこれらのケースはごくわずかな例外。シニア向けで「新しいこと」をしている企業はきわめて少数です。
両書のヒット以来、私のもとには「当社でも高齢者向けの本を」という出版社からの依頼が降るように舞い込んでいます。しかしそれは「売れる」とわかっているがゆえなので、新しい挑戦とは言えません。
ここでもし、旅行業界やエンタメ業界から新サービスの企画や監修の依頼があれば喜んで受けるのですが、今のところ一つもありません。ITやメディアなどの、先端的なはずの分野もしかりです。高齢者が楽しむための(高齢者を守るための、ではなく)デジタルツールやテレビ番組の企画がもっと出てきてもいいのではないでしょうか。ものづくりやサービス業の方たちが前頭葉をフルに使って、優れたアイデアを創出してくれるのを心待ちにしています。