思い込みが新しいことへの挑戦を妨げている
高齢者というテーマと「新しさ」を結びつけて考えているビジネスパーソンは少ないようです。
超高齢社会は日本のもっとも大きな課題であり、今後はシニアが最大の購買層となっていくのですから、無数のビジネスチャンスがあることは明らかです。
もちろんそこまでは、みんなわかっているのでしょう。しかしどの業界の人も、高齢者というターゲットのイメージが描けていない、昔から更新されていない、という印象を私は持っています。
そこには、「思い込み」という枷かせがはまっています。この思い込みはしばしば、新しいことをする際のリスクを過大に見積もるという失敗を招きます。私が最近体験したことも、まさにそうした例です。
私の著書『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)と『80歳の壁』(幻冬舎新書)は、ありがたいことに大ヒットとなりましたが、そこに至る前には紆余曲折がありました。
実はこの両書に限らず、私は高齢者向けの本を数多く書いています。日ごろご高齢の患者さんと多く接している経験から、「高齢者向けの本は売れる」という確信があったからです。
しかし、それらはヒットしませんでした。いずれもタイトルに「70代」「80代」といったワードが入っておらず、ターゲットがわかりづらかったのです。なぜ入れなかったかと言うと、出版社の方々が「そんなタイトルでは売れない」と判断したからです。
そんななか、バジリコという出版社だけは『六十代と七十代心と体の整え方』というタイトルで出版してくださり、それが6万部のヒットになりました。これでようやく、出版社の皆さんの思い込みが解けました。
続いて、大手出版社から出した高齢者向けの本のタイトルに「60代」というワードを入れましたが、こちらはヒットせず。そこで、「70代」を大いに前面に打ち出そうという方針をとり、『70歳が老化の分かれ道』をヒットさせることができました。
それにしても、ずいぶん長くかかったものです。思い込みが招く「新しいこと」への尻込みは、見えないところで企業の足を引っ張っていると感じざるを得ません。