研究者のやる気をなくす大学のシステム
もう一つ、研究を沈滞化させる要因として挙げられるのが、給与のしくみです。
日本の大学教授は、成果を出そうと出すまいと、大学から一定額の給与が支払われます。
他方、アメリカの大学教授の場合は、自力で稼いでくるシステムです。大学からもらう給与もありますが、日本に比べるときわめて低額です。ですから彼らは行政や企業に掛け合って、「グラント(研究費)」を集めます。
受け取ったグラントをどう使うかは教授の自由です。10のうち8を研究資金にして2割を報酬にしてもいいし、7:3でも6:4でも、好きに決められます。
グラントが集められるかどうかは、教授およびその研究室が結果を出しているか、もしくは有望であるかによって決まります。成果や実績、研究内容の持つ意義やポテンシャルなどを認めてもらえない限り資金は得られず、研究も続けられないし、生活も成り立ちません。研究者は自分の業績をもとに営業活動をし、研究室を運営していく「経営者」とも言えます。研究室にいい人材を集めるための努力も欠かせません。
対して、給与をもらっている日本の大学教授は「従業員」の立場ですが、業績にかかわらず給与が出るので、一般のビジネスパーソンよりも楽です。やる気のない人ほど嬉しい環境とも言えます。
逆に言えば、やる気のある人にとっては、恵まれた環境ではありません。と言うのも、研究の成果が報酬に直結しづらいシステムだからです。アメリカと違い、研究費は研究以外のことには使えません。研究の成果が出ても、それが商品化されてお金になるまで、報酬にはなりません。研究のほとんどは、お金を生み出すに至らなかったり、至ったとしても途方もない時間がかかりますから、やりがいにはいま一つ結びつきません。
もちろん、モチベーションの源はお金だけではありません。報酬など気にせず、意義ある研究や発見のために邁まい進しんするのも一つの姿勢です。ところが日本の学界は、研究の価値を正当に評価する意識も希薄なのです。iPS細胞のような「特大ホームラン」でもない限り、さほど注目されることもありません。そうしたなかで、もともとやる気のある研究者でも、徐々にやる気を失っていくのです。