第一に、オンラインではなく「対面の会話」が重要
本稿ではいわゆる「対面の会話」に注目します。親子関係を強化し、子どものスキルを長期的に向上させるのに、特に有効な種類の会話です。この種の会話では、話者同士が物理的に同じ場所にいます。心身ともに、その場に存在します。あなたはボディー・ランゲージや表情などの非言語的なサインに注意を払い、子どもにも同じことを促します。相手の話に注意深く耳を傾け、相手の発言と態度を見逃しません。
対面の会話は、五感を呼び起こします。発言内容と、発言の仕方が一体となっているため、しかめ面や笑顔、間の取り方を手がかりに、子どもはより深く学ぶし、会話に積極的になります。
また、子どものそばに座っているとき、親は子どもの動作や表情をまねる傾向があり、それが親子をつなぐ強力な接着剤となります。これは共感の基礎です。子どもにとっては、あなたの表情をまねることが、あなたの視点を理解する出発点となるからです。あなたの表情を見れば、あなたの感情や思考を知るためのヒントが――言葉以上に雄弁なヒントが――得られます。あなたは質問したり話したりしながら、ぬくもりも伝えています。その結果、子どもは学び、共感します。
メールやビデオ通話、電話で話すのも会話なのでしょうか? もちろん、そういう会話の仕方もあります。対面でない会話は、「間接的な会話」と呼ばれます。間接的な会話では、直接会わずに、電話やショートメッセージ、ビデオ通話やメールなどを介して話します。この種の会話を批判するつもりはありませんが――何しろ、人とつながりを保つのにとても便利な手段でもあるので――五感から情報やフィードバックを得る機会は、直接話すときほど多くありません。間接的な会話は重要だし、必要な場合すらありますが、会話としては不十分です。
スマートフォンを禁止すればよいわけではない
間接的な会話は悪くて、対面の会話が良い、ということではありません。あなたに恥をかかせるつもりも、「間接的な会話はやめましょう」と言うつもりも、まったくありません。マルチタスクで動いたり、夕飯を作りながらメールに返信したりしたからといって、悪い育児をしていることにはなりません。単純に家事と仕事を両立しようとすれば、そうならざるをえないときもあります。
いっとき子どもとの会話に集中し、次にSNSで息抜きをすれば、両方のメリットを享受(きょうじゅ)できます。それに、納期に追われていたり、子ども同士の遊びの日程を決めなくてはいけなかったり、いとこにビデオ通話を頼まれたりしたら、電子機器を手放すことはまず不可能です。
昨今では特に、間接的な会話にはそれなりの意義があります。場合によっては間接的な会話のほうが、対面の会話よりもずっと効率的に物事を処理できるからです。たとえば、家族が今どこにいるのか知りたいとき、誰かを迎えに行かないといけないとき、外出中の子どもの様子を確認したいとき、ショートメッセージと電話以上に手軽で最適な手段は、めったにないでしょう。また、離れて暮らす子どもに会いたいときや、パートナーや親せきにたまには子どもと会わせてあげたいと思ったときは、ビデオ通話はすばらしい代替手段になります。
SNSにも同じことが言えます。多少の利用は、子どもにとっても親にとっても、積極的につながるための助けになります。SNSを禁止するのは現実的ではないし、禁止されると余計に使いたくなるのがSNSでもあります。
それでもやはり、SNSをはじめとするたいていの間接的なコミュニケーションには、大きな制約があります。「対面の会話と何も変わらない」「すべてオンラインにすればいいじゃないか」とでも考えようものなら、はるかに濃密で繊細な対面の会話の、真のメリットは得られません。電子機器を通さず直接向かい合ったほうが、子どもの言いたいことがよくわかるし、会話にも身が入ります。可能なときは、じかに会って話すべきです。
では、どうしたら対面の会話を最大限に活用できるでしょう? ここで注目してほしいのが、私の提唱する「リッチトーク」です。上質な対話を日常に近づけるための、研究に基づいた原則です。
リッチトークに必要な「ABC」
何十人もの研究者と話し合い、親へのインタビューを重ねるなどして、すばらしい会話を生み出すための具体的な手段を研究していると、重要なテーマを繰り返し耳にします。言語学や児童心理学、それどころかAIの研究者にも様々な刺激を受けてきました。
そうした学術的な知見と親の気づきを融合させた結果、リッチトークは主に3つの要素によって成り立つと考えるにいたりました。この3つの要素は、頭文字を取ると「ABC」となります。文字通り、リッチトークの基本(ABC)と考えてください。
【A:臨機応変(Adaptive)】
子どもの発言や態度に応じて、親は話す内容や話し方を変えます。これには2つの意味があります。1つはその場での話し方を変えること。もう1つは、会話をあとから振り返り、より長期的な意味での接し方を変えることです。
親は子どもの現在の欲求――昨日や去年の欲求ではなく、その子の妹の欲求でもなく――に着目します。そして、子どもにも同じことを促し、親の欲求に着目させます。臨機応変な会話をすると、子どもの欲求を正確に満たすための情報が手に入ります。年齢や発達段階や学年にふさわしい必要と「すべき」ものではなく、“今子どもが実際”に必要としているものがわかります。
それが、最近接発達領域【図表】をねらい撃ちし、今のその子にぴったりな課題と背伸びを提供する鍵です。親の手本を通して、子どもは深くつながったときの感覚を知ります。その体験を基に、他者とも深いつながりを築きます。自分の話を解釈する親の言葉を聞いて、学ぶだけでなく、視点取得(訳注:他者の視点に立つこと)のスキルも身につけます。
また、臨機応変な会話をすると、子どもに「どんな支援と手引きを」「どんな方法で与えるべきか」を、年齢にとらわれずに判断できます。たとえば、3歳の子どもでも、標準よりもかなり言葉が早ければ、難しい本の読み聞かせを喜ぶかもしれません。11歳の子どもでも、まだ人の表情をうまく読めないなら、様々な表情が表す気持ちについて話し合うとよいかもしれません。いずれにしろ、子どもの個性を認識できれば、その子の願望と欲求に最適な対応ができます。
子どもの欲求は、一見支離滅裂だったり、適当にあしらいたくなったりするかもしれません。たとえば、ふだんはおとなしい5歳の子どもが、紙で手を切り、半狂乱になったとしましょう。実はこれは、私の友達の体験談です。その子はそれまでけがをしたことも、血を見たこともなかったのでしょう。半狂乱になったのは、痛いからというよりも、指の血を見てびっくりしたからでした。
「紙で手が切れただけだよ」とあなたは言うかもしれません。確かにそうですが、子どもが怖がっている事実は変わりません。子どもは、「手が切れても死にはしない」という知識と、ほんの少しのなぐさめを求めているのです。それに応えるのが臨機応変ということです。年齢や発達段階にとらわれず、子どもの今の発達状況をじっくりしっかり見極めて、対応方針を変えるのです。
「柔軟に対応する」と言い換えてもよいでしょう。子どものあるべき姿にこだわらず、その瞬間の欲求に目を向けてください。話すときの動作にも、同じことが言えます。腰をかがめたり、髪をなでたり、子どもが一人になりたがっているようであれば距離を置いたりしてもよいでしょう。大事なことは、具体的に何をするかではなく、いかに注意を払うかです。子どものサインに気づき、対応することです。
【B:双方向(Back-and-forth)】
双方向の原則に従って、2人ともが(3人以上で話す場合は全員が)積極的に、交互に、会話に参加します。だからといって、争って口をはさむ必要はありません。ほんの小さなシグナルが、何より大きなチャンスを生み出す場合もあります。
たとえば「へー」「えっ、そうなんだ」といった相槌(あいづち)を打てば、話を聞いていることを示せますし、「あなたの発言に興味があるから続きを話してほしい」という意思表示になります。あるいは、日課の散歩で気づいたことを話して、子どものコメントを待つこともできます。自分の意見を伝えて、子どもの意見を尋ねてみるのもよいでしょう。
会話が双方向であれば、お互いに会話の欲求を満たすチャンスが得られます。逆に会話が双方向でなければ、あなたは子どもの真意をつかみ損ねるか、独りよがりな会話をしてしまうかもしれません。たとえば、子どもに質問されたときに、一通り答えを説明してから、「これでわかったよね」とまとめたら、どうでしょう。回答自体は何も間違っていなくても、子どもは疑問を解くチャンスも、「よくわからない」と言うチャンスもつかめません。
そうではなく、説明を区切って子どもの理解を確認したり、前もって子どもの考えを尋ねておいたりすれば、あなたはその会話から子どもの欲求を学べるし、子どもも同じくらいその会話から学びます。お互いに積極的に話を聞き、新しい視点を受け入れられます。つまり双方向の学びが成立するのです。
【C:子ども主導(Child-driven)】
そもそも子どもと何を話すべきでしょうか? その答えは、十中八九、あなたの目の前にあります。「子ども主導」とは、子どもにとって重要なものから話し始めましょう、という意味です。
それは子どもが発したアイデアや質問かもしれないし、あなたが気づいた子どもの喜び、悩み、苦労、いえそれどころか、上達中のスキルかもしれません。多くの場合、子どもの関心は、探らなくてもわかります。レゴで組み立てた作品や、ゲーム機や、ダンスの振り付けについて、子どもが自ら話を求めてきたりするのではないでしょうか。
しかし、そうでない場合は、気づくのに注意を要します。子どもと静かに向き合う時間を取るのが有効です。たとえば、息子が毎週サッカーの練習から不機嫌な様子で帰ってくるとします。得点はたくさん挙げています。もっと得点を挙げたチームメイトに嫉妬しているのかもしれませんし、疲れているのかもしれませんし、サッカーに興味がなくなったのかもしれません。
子ども主導の原則に従い、息子に何が起きているのかを声に出して考える時間を取りましょう。もしくは、「機嫌がいいはず」と決めつけず、息子の気持ちを尋ねます。そうやって子どもの視点から会話を切り出せば、子どもの心をつかみ、熱心な話し合いへと導くことができます。最初から子どもの興味を引けるので、すぐに心を通わせやすくなります。まず状況を確認することで、子どもは自己認識を高められるし、あなたは息子をよく理解するチャンスをつかめます。
リッチトークの「ABC」は重要です。「ABC」によって、あなたと子どもは1つのチームになれるからです。たとえ意見が違っても、水かけ論にはなりません。あなたは子どもの発言や気持ちに素直に耳を傾け、子どもにも素直に心を打ち明けるよう促します。子どもの決めつけや思い込みに穏やかに異を唱えます。
子どもは批判されたと感じることなく、自分の考えを問い直します。その結果、自分の頭で考える癖がつき、安易に他人に流されないようになります。事実を吸収して学ぶようになるだけでなく、自分の好みや欲求に合った学び方も編み出します。
また、あなたの気持ちに気づき、その理由を考えます。あなたが動揺しているときは、有効な反応をすること、つまりあなたの心情を理解するために質問することを学びます。こうして他者の心の機微を理解できるようになり、自分自身のこともよくわかるようになります。
レベッカ・ローランド
音声言語病理学者。ハーバード大学教育大学院講師、ハーバード大学医学大学院教員、ボストン小児病院神経内科に所属する言語療法の専門家。
言語聴覚士の国家資格を有し、幼児から高校生までの子どもを対象に、教育現場でカウンセリングや学習補助をしている。発話言語や読み書き障害、および子どものコミュニケーション能力の発達について研究し、教師の専門性向上に取り組んできたほか、アメリカの新聞や雑誌などさまざまな媒体で教育や子育てに関する記事を寄稿している。