(※写真はイメージです/PIXTA)

子どもの学びに対する自分自身の衝動や反応に気づけると、「手伝い」はしても「手伝いすぎ」にはならない、ベストな妥協点が見つかります。言語聴覚士の国家資格を有し、幼児から高校生までの子どもを対象に、教育現場でカウンセリングや学習補助をするレベッカ・ローランドの著書『自分でできる子に育つ 最高の言葉かけ』(SBクリエイティブ、木村千里訳)より、子どもの積極的な学びを育む方法を見ていきましょう。

学びを重視するなら「適切なレベル感」に固執しない

親なら誰しも、子どもには適切なレベルの本を読んでもらいたいと思うものです。しかし、この考え方はときに行きすぎてしまいます。「あの子にあの本を読ませないで。まだ早いから」と教師や親がささやくのを聞いたことがあります。

 

読書で挫折(ざせつ)してほしくない、読書は学びになるものであってほしい、という気持ちはわかります。しかし、ルールに固執しすぎると、子どもたち一人ひとりの視点や関心、アプローチを尊重することを忘れてしまいます。ある子どもにとっては挑戦したくなる本でも、別の子はそれで挫折してしまうかもしれないのです。だから、レベルにこだわるよりも、子どもが興味を持つ本や話題や目標を選ぶよう心がけましょう。

 

ある朝の図書館でのことです。7歳の娘・ソフィーが本を選んで持ってきたので、「難しすぎないか、チェックしてみよう」と、私は言いました。私たちは「5本指ルール」を試すことにしました。多くの学校で採用されているこのルールは、次のようなものです――知らない単語が1ページに5個あれば、その本はおおよそ適切なレベル。6個以上あれば難しすぎる。知らない単語が1つもなければ簡単すぎで、たいして学びにならない。

 

「1つの段落だけで5個も知らない単語がある」とソフィーがたいそうなため息をつきました。

 

「他のを探しましょう」

 

「これがいいの」とソフィーが譲らないので、私はあきれ、好きにさせました。

 

夜が来るごとに、ソフィーはその本を持ってきました。難しい言葉にぶつかるたびに、私が読むのを手伝いました。

 

「ソフィーのレベルに合ってないんだよ」とつい言ってしまいました。

 

「別にいいもん」

 

何週間か読み続けましたが、一晩に2ページ以上進むことはありませんでした。

 

「もっとソフィーに合った本を探さない?」と私は何度も聞きました。

 

「イヤ」

 

その頑(かたく)なさには、私もお手上げでしたが、その先に面白い展開が待っていました。読み進めるうちに、ソフィーはあまりつっかえなくなり、「ここ、くだらないよね?」といった感想をもらすようになりました。私の助けを必要とすることも減り、「100ページもあるんだよ! 本当に難しい本なんだよ」と誇りも芽生えてきました。

 

難しい本をコツコツと読み切った効果が現れたのです。これが最善の選択だったのでしょうか? そうではないかもしれません。しかし、それがソフィー自身の決めた目標でした。「難しすぎる」本を読むという選択は、ソフィーの性格と、「自分の能力を証明したい」というソフィーの願望に合っていました。それに、親子で会話をしたおかげで、その読書がソフィーにとって大きなストレスや重荷になっていないかを、一緒に確認できました。だから、もしストレスになっていれば、いったんその本から離れることも可能でした。

 

ルールを無視して、子どもの読みたがるものをなんでも読ませればいい、ということではありません。読書にしろ学びにしろ、ルールはガイドラインととらえるべきで、子どもに合わせて変えていいのです。学校では、そうはいかない場合もあります(少人数の柔軟なグループ分けがされていればうまくいきますが)。しかし、家庭なら間違いなく、個人に合わせたアプローチを考えられます。

「学び方を学ぶ」には会話が有効…メタ認知を促す介入

その一件があってからしばらくすると、ソフィーは本の難易度を前よりも見分けられるようになってきました。ある本を開いたときは「ちょっと難しそうだけど読めると思う」、別の本を開いたときは「あまりにも難しすぎる」といった具合にです。

 

そのソフィーの感想をきっかけに、私は読むべき本についてともに話し合い、ソフィーの判断をさらに明確にしながら、その判断が正しいものかどうかを考えさせました。たとえば、「難しい言葉がところどころにあるけど、ソフィーなら読めると思うよ」と言うこともあれば、逆に「その言葉が出てくるってことは、高校生向けだから、やめときましょう」と言うこともありました。

 

こうして試行錯誤を続けるうちに――生徒を相手にしているときにも、何度も体験したことですが――ある事実が浮き彫(ぼ)りになりました。学び方を学ぶには、会話がとても有効なのです。

 

会話をすると、「自分の思考について思考するスキル」が伸びます。この「メタ認知」というスキルが伸びると、自分の知っていることと知らないことを認識できるようになります。どの部分を他者に助けてもらうべきで、どうしたら助けてもらえるかがわかるようになります。

 

この30年間、メタ認知の研究が盛んに行われてきました。今では、「失敗にめげず首尾よく学び続けるためには、メタ認知が重要」と研究者たちは認識しています。

 

「思考について思考する」ことは、便利なだけではありません。見通しを立てて課題を実行するスキルを身につけるうえでも、さらに大きな効果を発揮します。課題の対処方法を事前に考える子どもは、計画を立てて経過を自己監視することを学びます。

 

メタ認知的に思考するとき、子どもは学びの状況と自分の気持ちを常に監視しています。そして、うまくいかないときややる気が出ないときは、立ち止まり、修正を加えます。そうやって状況を俯瞰(ふかん)すると、次にやることも決めやすいし、注力すべきポイントも見えやすくなります。これは、自立心が高まり、学習意欲を高める必要がある大きな子どもにとって、特に重要なことです。

 

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<コラム:メタ認知と成績の相関>

2017年にスタンフォード大学が行った研究で、統計学を履修している大学生を対象にテストを実施しました。生徒を無作為に2つのグループに振り分け、1つのグループには、各テストの前に学習戦略を練ってもらいました。すると学期末には、そのグループのほうがよく内省し、参考書を効果的に活用し、良い成績を取りました。

 

研究論文の著者であるパトリシア・チェンの説明によると、多くの生徒は実際以上にテスト準備ができていると思い込んでいます。そのため、内省しなかったグループは、最後まで成績が振るいませんでした。しかし、内省したグループは、自分のやり方のどこに問題があるかを理解でき、もっと勉強する必要があると認識できたのです。

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メタ認知的な思考で親子関係もよくなる

やがて私は、こうしたメタ認知を促す介入が子どもの様々な学びを、そして親子関係をも強力に後押しすることに気づきました。メタ認知的な思考は、親子双方の利益になりうるのです。

 

以前、ブリアンナと面談したときのことです。ブリアンナにはジェレミーという10歳の息子がいて、その日はジェレミーの読むスキルが伸びているかどうかを話し合いました。ジェレミーは読み書き障害で、読みを実現する2つの段階、つまり文字の音声化(デコーディング)と、内容の理解(読解)の両方を苦手としていました。どちらも改善してきてはいるものの、ジェレミーからは疲労感が漂(ただよ)っていました。

 

本人に事情を聞くと、バスケットボールの練習をこなしたあと、宿題を終わらせるために夜遅くまで勉強しているとのことでした。私の指導中、ジェレミーはしょっちゅう机に伏していました。教師によると、学校でもほぼ同じ状態だそうで、睡眠不足の懸念があるとのことでした。

 

「2人で何時間もかけて宿題をやっているんです」宿題は順調ですかと私が尋ねると、ブリアンナはそう嘆きました。「私は一緒にやってあげたいし、間違いをそのままにしておきたくないんです」

 

「宿題は終わりますか?」と私は尋ねました。

 

「それは大丈夫です。私が責任を持って終わらせてます」

 

「でも、そのやり方をどう感じていらっしゃいますか?」

 

「やりすぎな感じがしますね」ブリアンナはハッと笑い声をもらしました。「息子が嫌がっているのも知っています。最後には息子はくたくた、私はぷんぷんですよ」

 

「正直になってはどうでしょう?」と私は提案しました。「『なぜこういう答えになったのか教えてくれない?』と言うんです。疑問に思ったことを素直に尋ねてください。それで息子さんに説明させれば、間違いに気づくかもしれません」

 

「もし気づかなくて、先生に怒られたら? 成績が下がったらどうすれば?」

 

もっともな言い分です。でも、子どもが本当にがんばっているなら、怒る教師はほとんどいないものです。

 

それに、たとえ成績が下がっても――確かに大変なことではありますが――良い面がないわけではありません。私はこれまで、授業にはついていけないけれど、宿題は完璧に提出する生徒を持つ何人もの先生方から話を聞きましたが、宿題が完璧だと、その子がどこでつまずいているのかを突き止めるのは困難なのだそうです。逆に、多くの子どもが同じ部分でつまずいていれば、ほとんどの教師はそれに気づき、指導法を変えます。

 

また、ブリアンナにも話したように、学びに対する親自身の思考を監視するのも有効です。「この子が宿題を終わらせられなかったらどうしよう、と不安になったり、焦ったりしていないか?」「もし宿題が終わらなければ自分の責任だ、と思っていないか?」と自問自答することで、最も効果的な次の手が見えてきます。たとえば、手出しをせず息子に任せるのがよい場合もあれば、息子が宿題を負担に感じたり完全にあきらめたりしないように、もっと助けてあげたほうがよい場合もあるでしょう。

 

このように、子どもの学びに対する自分自身の衝動や反応に気づけると、「手伝い」はしても「手伝いすぎ」にはならない、ベストな妥協点が見つかります。また、子どもの抱える困難について先生と話し合うか、子ども自身に先生と話し合ってもらい、子どものためになるやり方、特に子どもが独力で実践できるようなやり方を考えましょう。そうすれば、家庭生活と学校生活を連動させられますし、教師も子どもの状況や最善の支援方法をはるかに把握しやすくなります。

 

 

レベッカ・ローランド

音声言語病理学者。ハーバード大学教育大学院講師、ハーバード大学医学大学院教員、ボストン小児病院神経内科に所属する言語療法の専門家。

言語聴覚士の国家資格を有し、幼児から高校生までの子どもを対象に、教育現場でカウンセリングや学習補助をしている。発話言語や読み書き障害、および子どものコミュニケーション能力の発達について研究し、教師の専門性向上に取り組んできたほか、アメリカの新聞や雑誌などさまざまな媒体で教育や子育てに関する記事を寄稿している。

※本連載は、レベッカ・ローランド氏の著書『ハーバード大学教育学博士×発達支援専門の言語学者が教える 自分でできる子に育つ 最高の言葉かけ』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋し、再編集したものです。

ハーバード大学教育学博士×発達支援専門の言語学者が教える 自分でできる子に育つ 最高の言葉かけ

ハーバード大学教育学博士×発達支援専門の言語学者が教える 自分でできる子に育つ 最高の言葉かけ

レベッカ・ローランド 著
木村 千里 訳

SBクリエイティブ

【子どもの教育は「会話」がすべて! 時間もお金もいらない、科学的な子育てメソッド】 子育てをするには、あまりにも時間が足りない。子どもにしっかり向き合いたくても、仕事や家事に追われ、十分な時間が取れない。そん…

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