子どもの「あらゆる気持ち」を肯定する
リフレクティブ・リスニングをするときに、特に重要なことは、ネガティブな気持ちを抑え込んだり無視したりしないことです。子どもには楽しい気持ちでいてほしいものですが、私たちが子どものポジティブな気持ちしか見ようとしなければ、他の気持ちは注目に値しないと受け取られかねません。そうなると、子どもは恐れや悩みを隠すどころか、家族や友達が抱えている恐れや悩みさえも侮辱(ぶじょく)するかもしれません。隠ぺいされた気持ちは、往々にして悪化し、罪悪感、さらには不安感へとつながります。
子どものあらゆる気持ちを肯定するには、感情の回想(emotional reminiscing)を試してみてください。過去のふとした瞬間、特にストレスの多いネガティブな瞬間に焦点を合わせます。当時の出来事を語り、その出来事を乗り越えた子どものレジリエンス(回復力)を強調しながら、次回に向けて策を練りましょう。
たとえば子どもが、「あの病院ではすごく怖い思いをした」と言っているとします。この場合も3つのEを試してください。記憶を膨らませ(=Expand)、感情を探り(=Explore)、当時の反応を評価して(=Evaluate)強みとしてとらえ直します。
「そうだね、注射をして、顔が真っ赤になったよね。泣きはしたけど、とってもがんばったね」といった言葉が考えられます。子どもが会話に参加する余地を残し、次のように尋ねましょう。「他にどんなことがあったかな?」「どんな気持ちだった?」「なんのおかげでがんばれた?」
困った出来事やストレスに満ちた出来事について、話をじっくり聞いてくれる相手と語り合うことで、子どものメンタルヘルスは向上します。『EA ハーバード流こころのマネジメント』(ダイヤモンド社、2018)の著者スーザン・デイビッドとも語り合ったことですが、感情の回想とは要するに、「感情をとことん味わったうえで、なおできることがある」と子どもに思い出させることなのです。
親自身の「つらかった経験」を共有することも有効
ある研究では、母親と9~12歳の子どもがストレスフルな出来事について話す際、「感情語」(「嫉妬している」「がっかりした」など)についてよく説明し、感情語をよく使うほど、子どもは落ち込みや不安、感情の爆発を示しませんでした。
また、未就学児を対象とした別の研究では、母親がつらい出来事を詳細に、感情や反応を丁寧に語るほうが、子どもは高い感情調整能力を示す傾向がありました。親の振り返りという下地があると、子どもは自分の感情のあり方、課題や恐怖への反応の仕方を理解しやすくなります。
親自身の体験を聞くことで「こんなふうに感じるのは自分だけじゃないんだ」とわかります。「悲しみ、動揺、恐怖といった感情について語ることは恥ずかしいことじゃない」「そういう感情を覚えること自体、恥ずかしいことじゃないんだ」とわかるのです。
とはいえ、「言うは易し行うは難し」の感は否(いな)めません。慌てているとき、疲れているとき、ストレスを感じているときは、特にそうでしょう。そこで、何十人もの親や心理学者、研究者と話すなかで見つけた、共感を妨げる4つの主な話し方とその解決策を、以下にご紹介します。
共感構築を妨げる「NGな話し方」とその解決策
【NG①:感情に判断を加える(「あなたはこう感じるべきだ」)】
たとえば息子が、「あんなことでうろたえるなんて、どうかしているよ」と言ったとします。この発言には明らかに判断が加わっています。一方で、ここまであからさまではない判断もあります。それが、答えがあらかじめ想定されている質問です。「パーティー、本当に楽しかったね?」というコメントについて考えてみましょう。これには断定的な響きは皆無ですが、「みんな同じように感じている」という含みがあります。その結果、「できたら家にいたかった」とはみんな言いにくくなってしまいます。
⇒解決策:あらゆる感情を受け入れる(「あなたはどう感じてもかまわない」)
すべての感情を歓迎するために、まずあなたの家庭の「感情の文化」に気づきましょう。どんな気持ちについて話し合い、共有されているか。また、どんな気持ちは無視され、嘲(あざ)けられるか。各家庭によって感情の文化は異なり、その差は生まれ育った家庭による部分もあります。怒ることが禁止されていた家庭もあれば、興奮や喜びを表現することが禁止されていた家庭もあるかもしれません。配偶者やパートナー、他の親族との感情の文化のずれ、気兼ねなく表現できる気持ちの違いに注目してください。
【NG②:感情を同一視する(「あなたはこう感じている」)】
私たちは自分の感情と子どもの感情を混同したり、子どもの感情を決めつけたりすることが多すぎます。「あれは悲しい映画じゃないよ」「あなたは怒ってない」などと自分個人の意見を事実として伝えます。でも、たとえ論理的ではなくても、子どもは悲しんでいるかもしれないし、怒っているかもしれません。ですから、心にこう問いかけましょう。「子どもの視点からだと、どう見えるだろう?」「態度や表情、口調から読み取れる、子どもの本当の感情は?」
⇒解決策:感情を区別する(「私たちは同じように感じているとは限らない」)
子どもの感情を引き出し、言葉で説明できるよう支援します。子どもの出した話題に付き合ったらどうなるかを探ってください。子どもの感情に寄り添うとは、一緒に感情に溺(おぼ)れることではありません。どんな感情であれ、それについて話し合い、感情を理解できるよう助けることです。
ボストン大学の心理学者チャールズ・ダーバーは、会話の応答には2つのタイプがあると述べています。「受け止める」か「ずらす」かです。受け止める応答とは、子どもが挙げた話題に沿った答えを返すことです。ずらす応答とは、会話の焦点を自分に向けることです。
例として、娘が「飛び込み台に乗るの緊張するな」と言った場合を想定してみましょう。このとき、「なぜ?」「何が心配なの?」などと返すのが受け止める応答で、「飛び込みは楽しいよ。以前私が飛び込みをしたときは…」などと返すのがずらす応答です。親は助け舟のつもりでも、ずらす応答をすれば娘の緊張感については話さずじまいです。それでは、娘は次からもっとストレスを感じてしまうかもしれません。
ほとんどの会話は、「受け止める」と「ずらす」のバランスが自然と取れています。しかし、子どもがすべてを語っていないと感じるときや、特別弱気に見えるときは、受け止める応答を心がけましょう。
【NG③:恥をかかせる(「そう感じるのは恥ずかしいことだ」)】
「そんなことで泣いてバカじゃないの」「あれを怖がるのは赤ちゃんだけよ」といったコメントは、明らかに子どもを辱(はずかし)める言い方です。しかし、「気にしすぎだよ」「もうそれ以上言わないで」といった言葉も、「そんなふうに感じてほしくない」というシグナルになります。
⇒解決策:消化させる(「自他の気持ちが最初から理解できなくても、良い感情だと思えなくてもかまわない」)
感情を理解するには、時間と会話が必要な場合があります。何しろ感情の不意打ちはまったくめずらしいことではありません。
遊びの最中に兄弟が泣き出したとか、冗談を言ったら友達が怒ったとか。自分自身の感情に驚いたり混乱したりすることもありますし、それは親が思う以上に頻繁に起きています。嫉妬している子どもが「腹が立つ」と言うこともあれば、がっかりした子どもが「悲しい」と言うこともあるでしょう。
会話をすることで、子どもは自分の感情をより正確にとらえられます。そして親は、子どもがどのような支援を必要としているのか理解できます。気持ちに「良い」も「悪い」もない、気持ちは天気のように変わりうるものだ、ととらえてください。様々な感情を建設的な方法で乗りきることに専念しましょう。「悪い」感情など1つもないことを忘れないでください。
常に楽しく過ごすことが目標ではありません。そんなことは現実的ではないし、子どもにとって不健全ですらあります。もし子どもが気分を変えたい――たとえば「曇って」いる気持ちをもっと「晴れ」に近づけたい――と言うなら、「どうしたらその雲をどかせるかな?」と尋ねてみましょう。自分の反応は自分でコントロールできることを、子どもにわからせるためです。
また、感情は1種類とは限らない点にも気をつけてください。子どもが感情に名前を付けたものの、釈然としない顔をしているときは、「それで全部?」「それは確かにワクワクするね。他にどんな感じがする?」などと尋ねてみましょう。そのように考えて話す時間を与えるのもよいし、「私はプレゼンテーションのことを考えると、ワクワクするけど緊張もするよ」と手本を示してもよいでしょう。
【NG④:孤立させる(「そう感じるのはあなただけ」)】
「そんなふうに感じるなんておかしな子ね」「そんなふうに感じる人はいないよ」というようなコメントをすると、「自分の感じ方はおかしいんだ」「これは話してはいけない感情なんだ」という印象を子どもに与えてしまう可能性があります。
⇒解決策:寄り添う(「この感情を一緒に乗り越えよう。感じ方が違っても、私たちの心は1つ」)
協力的な、励ますような口調は、「一人じゃない」と感じさせる効果があります。また、会話が途切れたり続かなくなったりしたときに、それを打開する効果もあります。というのも、この種の感情の会話は、子どもが不慣れな場合は特に、行き詰まる可能性があります。子どもが「わからない」と繰り返しながらもまだ話したがるときや、会話が行き詰まったときは、次のコラムで解説する原則に注目してください。
コラム:会話が行き詰まったときのヒント
<子どもが言葉に詰まっているときは…>
●選択肢を示す:「~かな、それとも~かな?」
●実体験について質問をする:「もしこんなことがあったらどう感じる?」(=想像力が必要)ではなく、「昨日あったことについてどう感じた?」(=すでに起きた事象について話してもらう)と尋ねたほうが、答えやすくなります。
●あなた自身の例を挙げる:「今年は冬に家族旅行に行けなくて残念だったな。あなたは何が残念?」
●子どもから読み取った感情を言葉にして確認する:「動揺しているみたいだけど、合っている? それとも何か他の感情も混ざっている?」
●体の感覚に注目する:「私はがっかりすると、みぞおちがムカムカするんだ。顔がほてるときもある。あなたはがっかりしたとき、どんな感覚がある?」
●前の話題やコメントに話を戻す:「友達が引っ越すって、今朝言ってたね。その話をもっと聞かせてくれない?」
●子どもの視点をさりげなく探る:「キャンプに行きたくないって言ってたよね。理由を詳しく教えてくれる?」
●会話を中断し、一息つく余裕を与える:「お互いに感情的になっている気がするな。いったん休んで、またあとで話そうか」
●欲求を説明するよう促す:「気持ちを立て直すのに何が役立つと思う?[散歩/深呼吸/ハグ/話し合い]をするべきだと思う?」
●子どものために最善を尽くしていることを強調する:「あなたのことを理解して助けたいから、なんとかその方法を考えたいんだ。何か別のやり方がないかな?」
レベッカ・ローランド
音声言語病理学者。ハーバード大学教育大学院講師、ハーバード大学医学大学院教員、ボストン小児病院神経内科に所属する言語療法の専門家。
言語聴覚士の国家資格を有し、幼児から高校生までの子どもを対象に、教育現場でカウンセリングや学習補助をしている。発話言語や読み書き障害、および子どものコミュニケーション能力の発達について研究し、教師の専門性向上に取り組んできたほか、アメリカの新聞や雑誌などさまざまな媒体で教育や子育てに関する記事を寄稿している。