(※写真はイメージです/PIXTA)

マンションの駐車場に空きが生じると、管理組合の収支バランスが崩れてしまいます。収支を健全な状態にするには、外部駐車場の利用者を呼び戻したり、駐車場使用料やルールを見直したり、効果的な解決策が必要です。66歳で管理組合の理事長となった陣内隆さん(仮名)は、「空き駐車場問題」に対してどのような対策をとったのでしょうか。みていきましょう。

人気のない下段の駐車スペースは「撤去」することに

そこで対策としていくつかの案が出た。

 

ひとつ目が、空き駐車場を月極駐車場や、事業者にパーキングやカーシェアリングとして外部に貸し出すというもの。

 

ただし、管理組合が区分所有者以外から得た収益は課税対象となるため税金の処理が毎年かかること、マンション内に部外者が入ってくるのはセキュリティ上どうか、何よりマンション周辺には空きパーキングがたくさんあり現実的ではなさそうであった。

 

2つ目に税金が発生しない形で区分所有者向けにトランクルームを設置しようという案も出たが、アンケートによると需要は見込めなさそうであった。

 

次にピット式3段の一部を撤去し平面化しようという話が出た。撤去には、機械式駐車場を解体しその上に鋼製の板を載せて蓋をするような形で平面化する工法(地下ピットの空間に支えを組み立てたほうがよりいい)と、解体後の地下ピットに土砂やアスファルト、コンクリートを入れて埋める工法があるという。

 

鋼製平面化だと排水ポンプやボルトの緩みなどの点検がいるが、埋め戻して平置きにするとメンテナンス費用がかからなくなる。鋼製平面化のほうが費用もかかるというので、埋め戻しを検討していた。

 

しかし、いまの空きに相当する4機12台分の撤去と埋め戻しで約250万円かかることがわかり、思いのほか高い費用に理事一同で絶句してしまった。

 

そんななか、3段式の部品を含め一斉に交換する費用(修繕)と、新しく2段式に入れ替える費用(交換)がほぼ変わらないことがわかった。

 

むしろ少しではあるが交換のほうが安くなりそうだ。それは修繕は分解するなど人件費が多くかかり、交換はメーカーが新しい駐車装置を売りたいため、値引きに応じてくれるからだという。

 

幾度となく住民説明会と議論を重ねた結果、3段式(地上1段、地下2段)から、2段式(地上1段、地下1段)に交換する方向に決まった。

 

具体的には数年後の大規模修繕時にあわせて実施しようということになっていたのだが、奇しくもつい先日発生した台風によって、近くのマンションで機械式駐車場の故障と車両が冠水する被害があり、地形が似ている当マンションでも早めに実施したほうがいいということになり、臨時総会を開催し承認された。これから交換の工事が予定されている。

 

駐車場使用者からは不安の声があがっていたが、これでゲリラ豪雨などの冠水リスクも軽減できるし、地下でもワゴンなどのハイルーフを停めたいという居住者のニーズに応えることもできる。さらに、メンテナンス費用を削減できるため、結果として収支もよくなる。

 

任期の2年間、隆さんは理事長として大変な思いはしたが、マンションのいまの懐具合を知れたし、何よりマンション内でさまざまな要望があり、改善傾向にあるのは理事長冥利に尽きる。

 

また、同じ目的を持って熱く議論したことで、マンション内に顔見知りの住民が増えたことは、定年後の2人暮らしの隆さんたちにとって、何よりの安心感につながったようだ。

 

 

日下部 理絵

マンショントレンド評論家

オフィス・日下部 代表

 

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※本連載は日下部理絵氏の著書『60歳からのマンション学』(講談社+α新書)から一部を抜粋し、再編集したものです。

60歳からのマンション学

60歳からのマンション学

日下部 理絵

講談社

私たちは、本当にマンションを終の棲家にできるのか? 2030年、分譲マンション約780万戸のうち、築30年以上が過半数を超える。現在、安全・安心・快適なマンションへの永住指向が強まる一方、自らの老いとマンション老朽化…

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