経済体力を無視した戦費調達の恐怖
■体力を超えた戦争をすると確実にインフレになる
国債の大量発行は金融市場にも影響を与えます。
当初は、政府の発行する国債を一般的な投資家が購入することで国債を消化していくことになりますが、一定限度を超えるとそれも難しくなります。中央銀行が国債の消化に乗り出すことになると、最終的にはインフレの原因となります。
日露戦争の戦費調達のために発行した国債は、ほぼ全額、海外の投資家が引き受けましたから、問題なく消化することができました。
しかし太平洋戦争では、英国と米国という金融市場の中核となっている国を敵に回しましたから、海外市場での調達ができません。日本の金融市場では大量の国債を消化することができず、最終的には日銀がこれを引き受ける形にならざるを得ませんでした。
中央銀行が国債を直接引き受けるということは、戦費という形を通じて、市中に大量のマネーを供給するということにほかなりません。当然、通貨の価値は減少し、インフレが発生することになります。
インフレが発生すると、名目GDPは増えますから、その分、経済は成長したということになるでしょう。
しかし、名目GDPの増加分もしくは、それ以上に物価が上昇しますので、名目GDPから物価上昇分を差し引いた実質GDPは増えないことになります。インフレが激しい場合には、むしろマイナスになる可能性も出てくるでしょう。
経済体力を無視した戦費調達を実施すると、ほぼ確実にインフレが発生すると考えた方がよさそうです。
金融的な側面に加えて、実需面でもインフレのリスクがあります。
各国の経済は、基本的に需要と供給がバランスする形で均衡しています。つまり、需要が存在する分の生産能力しか企業は持っていないわけです。もちろん企業は、急な需要の増加に対応するために、生産設備にはある程度の余裕を持たせています。しかし、そのバッファーを大きく超える注文が入った場合には、その注文をさばくことができなくなります。
そうなってくると、企業は高い報酬を払ってでも人を確保しようとしますから、物価が急上昇することになります。これは労働市場だけの現象にとどまるものではありません。資財や燃料の調達など、あらゆる分野に及んでくることになります。
これまでにない量の発注が来ると、すべてのモノの値段が上昇し、製品の最終価格も上昇していきます。これが繰り返されると、経済全体でインフレが急激に進むことになるわけです。