(※写真はイメージです/PIXTA)

「親に数年会っていない」「家族との仲が悪い」──こうした状態が、「成年後見」を招く要因となります。また、多くの人にとって「相続」と「認知症」は人生後半における大きな課題です。もし、この二つの課題が同時期に重なってしまうと──資産が凍結されて「自分のお金が使えない」という最悪の事態を招いてしまいます。石川秀樹氏の著書『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決 』(ミーツ出版)より、人生において知っておくべき「相続と認知症」「成年後見」に関して書かれた箇所を、一部抜粋してお届けします。

 

生前贈与や借入、節税対策は不可

成年後見人は、預かった財産を被後見人のためにだけ使います。当たり前のようですが、天下の決まりごとのようにこれを毎回(本人が出金するたびに、という意味です)律義に行われたら、家族はたまらないだろうと思います。

 

かつて毎月のように行っていた回転すしの支払いも、「きょうはお父さんのおごり」というわけにはいかなくなります。後見人は父が食べた分だけを後見財産から支払うので、家族が食べた分は家族の家計が負担することになります。

 

このように、後見人は本人と家族の家計は別物として見ていますから、大盤振る舞いすることなく、きわめて防衛的な管理になります。生活に使う費用以上に本人の資産はふんだんにあるのだとしても、余剰な資金を投資に回して資産を増やそうとすることなどはあり得ず、生前贈与や借入は不可、また不動産を担保に入れることも、本人の財産を失わせる恐れがあるため許されません。

 

ですから本人が資産家だとしても、ひとたび成年後見人がつけば、節税対策のようなことは一切やれません。後見人の視野は原則として、経営や投資に向くのではなく「本人のくらし」に目を向けるのが仕事ですから、本人に代わって事業を継続してくれるなどということも期待できません。

親族後見人でも家計や事業との混同は不可

これは専門職が後見人に就任するからそうなるのだ、といわれそうですが、違います。親族後見人でも、今までと同様な財産管理はできなくなります。父である社長が被後見人、事業の片腕的な存在である長男が成年後見人になったとしても、結果は同じになるでしょう。家庭裁判所は成年後見人に「本人の財産と家族の財産は明確に区別するように」と指導するはずですから。

 

例えば、事業をやっていれば火急な必要があれば、社長本人が資産をなげうってでも事業を救うということはありそうです。同じような場面で、成年後見人となっている長男が被後見人の個人資産を事業に投じることができるかというと、それはむずかしい。

 

必要な資金を自分で調達できなければ、今度は事業のために銀行から借入をすることも考えるでしょう。銀行は当然のこととして、社長の資産を担保に取るでしょう。不動産に担保権設定、さらには貸金と相殺できるよう社長個人の預金に質権を設定することもありそうです。成年後見人である長男は、それができるでしょうか。「ノー!」できません。

 

本人が元気であったなら必ずやそうしたであろうことが、財産管理について本人を代表する(民法859条1項)とまでいわれ、包括的な財産管理権を有している成年後見人でも、それはできないと思います。

成年後見人は「本人の財産」を守るのが役目

成年後見人にできることは、本人のための財産管理と医療や介護などのための身上監護(手続き代行)です。事業や会社の危機を救うのは、ひいては社長個人の財産を救うことになる(だから社長は事業のためにお金を出せる)という理屈はありそうですが、それは後付けの理屈であって、成年後見制度発足時点の後見の理念とはかけ離れているように見えます。

 

結論はわかりません。「君たちは後見体験が足りないから、そんなことをいうのだ」と、もし事業を救った経験がある成年後見人がいれば、そのようにおしかりを受けるかもしれません。でも私は、成年後見制度はそんな大それたことをするために創設された制度ではない、と思っています。

 

家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決

家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決

石川 秀樹

ミーツ出版

人生後半には2つの危機が待っています。「認知症」と普通の家の「相続」です。 《相続がなぜリスクなのか、ですって!?》実は今、日本では相続がヤバイ! 生前の認知症は、意思能力喪失を理由に、自分の資産が凍結されて「…

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