前回は、実際に筆者が関わったメーカーの節税例を紹介しました。今回は、貸借対照表をスリム化し、節税に繋げる「財務リストラ」のメリットを見ていきます。

不要・遊休固定資産を処分し、貸借対照表をスリム化

今回から紹介する3つの節税の内容は、すべて貸借対照表(以降、BS)をスリム化するための節税です。この対策を私は「財務リストラ」と呼び、節税を実践するうえで最も重視しています。不要な資産をキャッシュに変えていく対策にほかならないからです。

 

高度経済成長期からバブル経済の頃までは、借入を増やして資産をたくさん持ち、BSを大きくするのが優秀な経営者のように思われていました。たとえば、土地・建物などの不動産を多く所有するなどです。自社ビルを所有するのもその典型例でしょう。

 

しかしBSを拡大させる経営は経済が成長し、売上がどんどん伸びていた当時であれば効果的でしたが、低成長を続ける現在では通用しなくなっています。現在は、たとえ売上規模が小さくなっても耐えられる「強い会社」の構築、BSのスリム化が求められているのです。

 

BSのスリム化というのは具体的には「勘定科目の項目と金額を減らす」ことを意味します。土地・建物といった固定資産を適切に処分する、売掛金や受取手形といった債権を早期に処理するなど、勘定項目とその金額を減らしていくのです。さらに負債を減らすこともBSのスリム化につながります。

 

固定資産を処分する際は「売却損」「除却損」「評価損」を計上します。これらの処理によって資産の簿価と時価の差額である「含み損」を顕在化させ、損金として計上して節税につなげていきます。

 

●売却損

 

資産を帳簿価格よりも低い価格で売却した際、その差額を「売却損」として損金計上できます。バブルの頃に取得し、そのままになっているような土地は多額の含み損をかかえているだけで、そのうえ固定資産税がかかり事業上のメリットがないケースも多くあります。

 

一般に土地価額は当時と比べて大幅に下落しています。帳簿価格よりも低値で手放して「売却損」として損金計上することで、固定資産税などの不要なキャッシュの流出を防ぎ、損金を増やすことで節税効果も得られます。

 

●除却損

 

建物や機械などの固定資産を廃棄した際、その資産の帳簿価格を「除却損」として損金計上できます。ただし、この除却損の処理は、その資産を実際に廃棄処分したときに計上するのが原則ですから、税務調査で廃棄の事実を問われる可能性を見越して「廃棄した証拠」を必ず残しておかなければなりません。

 

また、一定の条件を満たしている固定資産については、廃棄せず所有したままでも除却損として損金計上できます(有姿除却)。具体的には耐用年数が過ぎ、使用価値が明らかに尽きている資産などを指します。

 

たとえば歴史のある製造業の工場には、創業当初に使用していた古い機械設備がほこりをかぶったまま置いてあるものです。仕事で使うことはできないけれど、分解して部品を使い回しできるかもしれないなどの理由で残しているケースも見られます。この場合、古い機械を所有したまま有姿除却することで「除却損」として損金計上できるのです。

 

●評価損

 

所有している資産の取得価額よりも時価が下回っている際、その差額を「評価損」として損金計上できます。こうして不要・遊休固定資産を処分することでBSをスリム化し、節税効果で税金を減らしながらキャッシュを会社に残していくのです。

「事業上不可欠な資産かどうか」を判断基準に

資産が不要かどうかを見極めるのは実際には難しい問題ですが、私自身はここまで見てきたように「事業上不可欠かどうか」を判断基準にすべきだと考えています。

 

たとえば、製造業にとって工場や機械設備は不可欠な資産です。しかし自社ビルはどうでしょうか。製造業の場合、自社ビルが利益を生み出してくれるわけではありません。見栄を張って自社ビルを建てるより、工場や機械設備に経営資源を戦略的に投下したほうが合理的であるといえます。

 

ただし、各地に複数拠点を展開するような会社は別です。それぞれ賃料を払いながら各地で拠点を借りるより、本社ビルを所有して拠点を集約したほうが効率的な場合もあるからです。

本連載は、2016年8月2日刊行の書籍『税務署が咎めない「究極の節税」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税務署が咎めない 「究極の節税」

税務署が咎めない 「究極の節税」

辻 正夫

幻冬舎メディアコンサルティング

「せっかく稼いだお金を税金に持っていかれてたまるか!」 そんな思いから多くの経営者が節税に励んでいます。しかし、ひとたび節税の方法を間違えると税務署から捜査の手が入り、経営が楽になるどころか危機的な状況に陥り、…

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