前回は、従業員への「決算賞与の支給」を活用した節税策を紹介しました。今回は、企業が生命保険や共済制度を活用して節税をする方法を見ていきます。

「退職給与引当金」に代わる対策として生命保険を活用

生命保険は節税の方法として広く活用されています。企業が生命保険を活用する主な理由は次の2つです。

 

①役員や従業員の退職金を積み立てる

②役員や従業員の事故や病気など不慮の事態に備える

 

たとえば、100歳満期の長期定期保険に加入すれば、掛け金の2分の1が保険料として損金計上できるため節税になります。

 

具体的には、たとえば従業員が65歳で定年退職したときに解約すれば、これまでの掛け金の90〜100%(掛け金の支払い年数による)が会社に返戻されます。その際、掛け金累計の2分の1は雑収入として益金となりますが、同時に退職金という損金を計上することで相殺されるため課税は生じません。

 

かつては税務上、損金に計上できる「退職給与引当金」という税法がありましたが、現在は廃止されています。この税法に代わる対策として生命保険を活用するのです。

 

また、生命保険を役員にかけておけば、経営者の不慮の死去の際に会社に保険が下ります。その保険金を経営者の死亡退職金に充当したり、会社存続に備える資金として活用したりできるため必要に応じて検討してみてください。

 

会社が契約できる生命保険には多くの種類があり、目的によっても活用できる保険は異なります。目先の節税のために加入するのではなく、出口戦略も踏まえたうえで税理士や生命保険会社に相談されるといいでしょう。

共済の利用で倒産リスクの軽減も可能に

ここで紹介する「中小企業倒産防止共済」と「中小企業退職金共済制度」は、先ほどの従業員への決算賞与と同じく支出を伴う節税ですが、同様に従業員のための対策でもあります。

 

●中小企業倒産防止共済の活用

 

取引先の倒産で多額の売掛金を回収できなくなると、最悪のケースでは連鎖倒産のリスクも否定できません。そうなると従業員は路頭に迷ってしまいます。従業員の雇用を守るためにも、支出を伴う対策となりますが「中小企業倒産防止共済」の利用をおすすめします。

 

「中小企業倒産防止共済」とは、取引先事業者の倒産によって売掛金債権などの回収が困難となった場合に最高8000万円の共済金の貸し付けが受けられる制度です。掛け金は月額5000円から20万円と比較的少額で全額を損金に計上できます。

 

いつでも増額・減額できるうえ、解約手当金の払い戻し率は40カ月以上で100%(12カ月以上の加入が原則)。3年半近く加入していれば、その後はキャッシュが必要となっても、解約することで全額が手元に戻ってきます。連鎖倒産のリスクから従業員を守り、節税でも有効に活用できる制度といえるでしょう。

 

●中小企業退職金共済制度

 

退職金制度を整備していても会社が倒産すれば従業員に支給できません。そのリスクを少しでも緩和するために「中小企業退職金共済制度」の利用も推奨しています。

 

たとえば、私が代表を務める税理士法人では、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営している「退職金共済金制度(中退共制度)」を利用しています。掛け金の全額が損金計上でき、従業員が退職すると本人の口座に掛け金が直接支払われるものです。

 

ちなみに当税理士事務所の掛け金は、勤続年数に応じて月額1万〜3万円です。中小企業倒産防止共済と同様に、従業員に対するセーフティネットの拡充と普段から節税という、2つの目的で利用を検討してみてください。

本連載は、2016年8月2日刊行の書籍『税務署が咎めない「究極の節税」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税務署が咎めない 「究極の節税」

税務署が咎めない 「究極の節税」

辻 正夫

幻冬舎メディアコンサルティング

「せっかく稼いだお金を税金に持っていかれてたまるか!」 そんな思いから多くの経営者が節税に励んでいます。しかし、ひとたび節税の方法を間違えると税務署から捜査の手が入り、経営が楽になるどころか危機的な状況に陥り、…

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