前回は、貸借対照表をスリム化し、節税に繋げる「財務リストラ」のメリットを説明しました。今回は、回収不能に陥った「不良債権」を早期に処理する方法を見ていきます。

「税務署」からの厳しいチェックにも留意

回収不能に陥った売掛金などの不良債権がある場合、一定の要件を満たすことで「貸倒損失」として損金に計上できます。貸倒損失とは、取引先の倒産などによって金銭債権(売掛金・貸付金・受取手形など)を回収できなくなった債権者の損失を表す勘定科目です。

 

取引先が倒産して裁判所より破産決定を受けた場合や、民事再生を申請した場合等には、客観的に回収不能が明確ですから貸し倒れするのに問題はありません。問題は連絡がつかない、あるいは営業はしているが長年回収ができない等のケースです。

 

ただし、税金を不当に逃れる目的で恣意的に計上されるおそれがあるため、税務署はその債権が本当に回収不能かどうかを厳しくチェックします。したがって貸倒損失の処理を行う際は、税務署に「回収不能の事実」を正当に評価してもらわなければなりません。そのポイントを2点紹介します。

 

●債権放棄通知書

 

まずベストな手段は「債権放棄通知書」を送付することです。売掛金などの債権の回収ができていない相手先(債務者)に対して、債権放棄の内容証明郵便を郵送するのです。この手続きを踏めば貸倒処理を確定でき、税務署から指摘を受けることはありません。

 

●回収不能を証明するレポート

 

債務者と連絡が取れない場合は、事務所が畳まれている、債務者が行方不明になっているなど、実際に債務者の住所を尋ねるなどして掴んだ証拠をもとに回収不能を証明するレポートを作成します。レポートによって回収不能な事実をできるだけ詳細に記述しておけば、債権放棄通知書を郵送しなくても貸倒損失の処理は可能です。

 

この場合、決算書上は備忘価額として1円だけ残しておきます。備忘価額とは、何らかの事由で価値を失った資産を帳簿に記載する際に用いる金額のことで、回収不能な売掛金が100円ある場合、1円を売掛金として帳簿に記載し残りの99円を貸倒損失として処理します。

 

備忘価額として1円を残す理由は、債権の回収努力を継続する意思表明のようなものです。万が一、後になって債務者が現れて債権を回収できたとしても、雑収入で計上すれば問題ありません。

 

回収不能とまではいかなくても、回収できる可能性が低い準不良債権は「貸倒引当金」として損金計上できます。貸倒引当金とは、将来、債権が回収不能に陥った場合に備えて一定金額を損金に計上できる処理のことです。貸し倒れになる前の処理となるため、極めて厳しい要件が課されますので、顧問税理士などに相談して進めるといいでしょう。

気持ちを整理して、次の仕事に向かうほうが効率的

貸倒処理の提案をすると「心情的に難しい」と対策をこばむ経営者が少なくありません。売掛金を回収できないわけですから気持ちはよくわかります。なかには頻繁に請求の電話を入れたり債務者に怒鳴り込みにいったりする経営者もいるほどです。

 

しかし、回収できないものは、どう頑張ってもできないのです。回収できない不良債権のことばかり考えては気持ちが滅入り、良い心理状態での経営ができなくなります。

 

債権放棄通知書を送ってスパッと割り切り、気持ちを整理したうえで次の仕事に向かうほうが効率的ですし、貸倒損失金の計上で節税になり、不良債権の早期処理でBSがきれいになります。貸倒処理とは経営者自身の「心の整理」でもあるのです。

本連載は、2016年8月2日刊行の書籍『税務署が咎めない「究極の節税」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税務署が咎めない 「究極の節税」

税務署が咎めない 「究極の節税」

辻 正夫

幻冬舎メディアコンサルティング

「せっかく稼いだお金を税金に持っていかれてたまるか!」 そんな思いから多くの経営者が節税に励んでいます。しかし、ひとたび節税の方法を間違えると税務署から捜査の手が入り、経営が楽になるどころか危機的な状況に陥り、…

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