節税のために「中古のクルーザー」を購入してはいけない理由

節税のために「中古のクルーザー」を購入してはいけない理由

前回は、企業が生命保険や共済制度を活用して節税をする方法を紹介しました。今回は、節税のために「中古のクルーザー」を購入してはいけない理由を見ていきます。

節税という名目で「巨額の現金」が流出してしまう

本文で「支出を伴う節税には注意が必要」とお伝えしましたが、中小経営者であれば中古の減価償却資産を活用した節税に興味を持った経験があるのではないでしょうか。

 

この手の節税でよく利用されるのが「中古のクルーザー」です。福利厚生という名目で購入すれば事業用としての使用が認められ、損金計上が可能だからです。

 

クルーザーの法定耐用年数は、総トン数が20トン未満で銅船、木船以外のものについては4年。これが中古のクルーザーになると、法定耐用年数がわずか2年と短くなり、さらに「定率法」と呼ばれる減価償却方法が使えます。

 

償却率は「1.00」。これは「100%償却が可能」という意味で、条件次第では1年目に購入資金全額を損金化できるということです。

 

たとえば3月決算の会社が期初にあたる4月に中古クルーザーを1億円で購入した場合、1億円全額を減価償却費として損金計上できるうえに、仮に期の中間にあたる9月に購入したとしても半額の5000万円が償却可能です。

 

一見、大きな節税効果があるように見えます。クルーザーの販売業者も「中古のクルーザーを購入すれば最大2年で償却可能ですから、今買うべきですよ!」と巧みに宣伝し、経営者はつい「その気」になってしまうのです。

 

しかし、節税目的で中古のクルーザーを購入してはいけない理由が3つあります。

 

ひとつは節税という名目で巨額のキャッシュが流出しているからです。この点で、すでに私が考える節税の目的に反しています。

 

仮に3月決算の会社が9月に1億円の中古クルーザーを購入した場合、1年につき5000万円を減価償却費として損金化できます。法人税等の実効税率を34%とすると、節税効果は1700万円(5000万円×34%)、2年分でも3400万円です。

 

つまり、購入資金1億円から節税効果3400万円を差し引いた6600万円がクルーザーの取得という名目でキャッシュアウトしているわけです。

 

では、この6600万円を事業活動で得るためには、どの程度の売上が必要でしょうか。たとえば、製造業における売上高営業利益率は平均約4%といわれています。仮に営業利益率を5%とすると、6600万円の利益を得るために必要な売上は13億2000万円です。

 

中古クルーザーという資産は、この13億円という売上に匹敵するほどの価値があるかどうか、立ち止まって考えてみてほしいのです。

 

2つ目の理由は「事業に不可欠な資産ではない」ことです。節税目的で1億円を投資しても、購入した資産が新たなキャッシュを生み出すのであれば問題ありません。しかし中古クルーザーは高級車などと同じように会社にとって不可欠な事業用投資とはいえないはずです。

 

「直接的な利益は生まないかもしれないが福利厚生で従業員と海に出ているし、組織の結束力向上にひと役買っている」

 

そう主張する人もいるかもしれませんが、私の経験上、経営者が自身のプライベートな使用や見栄のために購入しているケースが多いように感じます。個人的な目的を果たすために、会社の貴重な資産1億円を「本当に使うのですか?」と、経営者は問われているのです。

 

最後は「銀行から良い印象を持たれない」からです。高級スポーツカーやクルーザーを購入しても、銀行の支店長や融資担当者が直接その話題に触れることはありません。ですが、そうした資産を購入する経営者をあまり良く思っていないことはたしかだといえます。

 

経営者の投資判断は、銀行にとっては経営の舵取りの巧拙を見極めるポイントのひとつです。過剰に意識する必要はありませんが、金融機関からの目も頭の片隅に置いて投資計画を立てることが大切です。

「課税の繰り延べ」を見越した出口戦略が必要

中古クルーザーを購入した会社の業績が悪化した場合、クルーザーの売却を検討したものの、価値は購入時の半額にまで下がっていました。

 

売り急ぐと余計に値段が低下しますが、経営を立て直すために一刻も早く会社にキャッシュを入れなければならず、結局、業者の言い値で売却することになってしまったのです。

 

さらに、中古クルーザーを売却したことで利益が出て、税金が課されるという「ダブルのダメージ」を被ることにもなりました。

 

こうした状態を「課税の繰り延べ」とも呼びます。中古のクルーザーを購入したときは一時的な節税効果が得られますが、あとになって利益が発生し、結局は税金を支払わなければならなくなるのです。

 

節税目的で資産を購入する場合は売却時期をあらかじめ想定し、そのタイミングで新たな経費を計上できる段取りを整えておかなければなりません。こうした対策を「節税の出口戦略」と呼びます。

 

節税は行き当たりばったりではなく、あるいは経営者の個人的な目的ではなく、会社の経営にプラスに働くように進める必要があります。

本連載は、2016年8月2日刊行の書籍『税務署が咎めない「究極の節税」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税務署が咎めない 「究極の節税」

税務署が咎めない 「究極の節税」

辻 正夫

幻冬舎メディアコンサルティング

「せっかく稼いだお金を税金に持っていかれてたまるか!」 そんな思いから多くの経営者が節税に励んでいます。しかし、ひとたび節税の方法を間違えると税務署から捜査の手が入り、経営が楽になるどころか危機的な状況に陥り、…

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