――国税庁が副業で収入300万円以下の場合には雑所得とするようなパブコメを出していましたが、あれからどうなりましたか?
板山翔税理士:「『帳簿書類の保存がなく、かつ収入金額が300万円以下の場合には雑所得とする』といった内容に大幅に見直しされました。」
改正案に対し、1ヵ月で7,000通以上の「意見」殺到
国税庁が8月に、「副業収入が300万円以下の場合には、特に反証がなければ雑所得とする」といった内容の所得税基本通達の改正案について、意見を募集するパブリックコメントを出していました。
この改正案が通れば、副業収入が300万円以下の人は、半自動的に事業所得ではなく雑所得として判定されてしまうため、事業所得であれば利用できる青色申告特別控除(最大65万円)や、損益通算(赤字の場合に給与所得など他の所得と相殺)などができなくなってしまいます。
そのため、上記パブコメに対し、1ヵ月で7,059通もの意見が寄せられたそうです。
どんな意見が寄せられたのか、一部紹介すると次のとおりです。
「政府の副業推進に逆行するものでないか」
「副業で起業した人は事業収入300万円以下の場合も多いが、こうした者も雑所得になるのか」
「真面目に記帳をしている者は、収入300万円以下の副業でも事業所得とすべきではないか」
「本業か副業かで所得区分を判断すべきでない」
「反証の範囲や内容が不明確である」
これらの意見を重く受けとめたのか、国税庁が10/7に公表した通達の改正案では、「帳簿書類の保存がなく、かつ収入金額が300万円以下の場合には雑所得とする」といった内容に大幅に見直しされました。
つまり、収入が300万円以下でも、帳簿書類を保存していて、事業的規模であれば、事業所得として認めてもらえるということです。
本業か副業かといった判断基準がなくなり、帳簿書類の保存という新しい判断基準が加わったイメージです。
帳簿書類を保存している場合や、保存していないが収入300万円を超える場合の事業所得か雑所得かの判断は、従来通り事業的規模かどうかで決まるようです。
結局のところ、「帳簿保存なし&収入300万円以下」のときは雑所得にしましょうってことが決まっただけで、あとは従来通り規模で事業所得か雑所得か判断しましょうってことですね。
副業で起業した人にとっては笑えない改正案でしたが、大幅に見直ししてもらえてよかったです。
事業的規模か否かの判定は?
事業所得か雑所得か、規模の判断基準については、以前も詳しく解説したのですが、気になる人もいると思うので、本稿でも再度解説させていただきますね。
どこからが事業的規模なのか、明確な基準は法律で定められていないため、過去に裁判で争われたときの判断基準を参考に、事業的規模なのか否かを総合判断する必要があります。
判例によって判断基準もまちまちなのですが、主に争点となっている判断基準をまとめると次の5つがあります。
【事業所得と雑所得の主な判断基準】
1. 営利性
2. 継続性
3. 独立性
4. 社会的地位
5. 生活状況
以下、それぞれの判断基準についてかんたんに解説していきます。
事業所得と雑所得の主な判断基準
■判断基準1. 営利性
営利目的の事業としてきちんと対価を受け取っているとか、今は赤字でも儲かるビジネスにするために活動していれば、営利性は問題ありません。
一方で、半分趣味の活動なのでタダ同然の価格で販売しているとか、どんどん経費を注ぎ込んで多額の赤字がずっと続いている場合など、営利目的ではなく楽しむことや節税が目的だと見られてしまうと、雑所得だと判断されるおそれがあります。
■判断基準2. 継続性
事業として取り組んでいれば当然活動期間も長くなりますし、取引の回数も多くなります。
一方、たまにしか活動していないときや、単発で収入があっただけの場合、あるいは何の届出も広報活動もしていないとか、事業を継続する意思がみられないような場合も、継続性に疑問を持たれてしまいます。
■判断基準3. 独立性
自分で帳簿付けや収支計算をして切り盛りしていたり、事業に必要な人材や設備を揃えたりしていれば、独立して事業運営をしていると言えるでしょう。
しかし、他人が切り盛りをしている事業を手伝っているだけの場合や、人材や設備を他人に用意してもらっているような状態であれば、自分で計算して責任を持って運営している事業とは言えない場合があります。
■判断基準4. 社会的地位
副業でも規模が大きくて、社会的に事業として認知されていれば問題ありません。
しかし、例えばある会社で役員になっていて、収入の大半がその会社の役員報酬である人が、副業で若干の収入を得たところで、その副業が事業と呼べるほどの社会的地位を得られるでしょうか?
副業の収入や活動時間が少なければ、その人の社会的地位はあくまで会社役員であり、副業は事業と呼べるほどの規模ではないと認識されてしまう可能性が高いでしょう。
■判断基準5. 生活状況
例え事業の収入が少なくても、生活の大半をその事業活動に注ぎ込んでいる場合は、事業として認められる可能性が高まります。
一方で、会社員や学生、子育て中の主婦など、生活の中心が事業以外の活動に充てられている状況があれば、事業として認められないリスクが上がります。
このように、さまざまな判断基準を総合勘案して、最終的に事業所得か雑所得かを判断する必要がありますので、判断に迷ったらできるだけ税理士などの専門家と相談しましょう。
板山 翔
板山翔税理士事務所 代表、税理士
おそらく日本初の「オンライン専門の税理士事務所」の創設者。自社の事業を「税理士業」ではなく、「経営に必要な情報をオンラインで提供する事業」と捉え、経営戦略コンサルタントとしても活動している。従業員5名以下の小さな会社の経営者を中心に、「小さな会社だからこそできる差別化戦略」の立て方や、「短期間で売上アップするためのマーケティング戦略」、「長期的に資産を形成していくための財務戦略」などを教えている。
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