女性脳は「おしゃべり」で子どもを守ってきた
女性脳は、何万年も、女同士のコミュニティの中で、子育てをしながら進化してきた。
ここでは、共感力が高い女性こそが生き残れる。心を寄せ合って、おっぱいを融通し合ったり、子どもの変化に気づき、臨機応変に動けたりする女性が。
子育ての現場では、「とりとめのないおしゃべり」が何より重要なのだ。
女性は、自分に起こった出来事を仲間に話さずにはいられない。「子どもが危険な目に遭って、それを回避した経験」なんて、黙ってはいられない。なぜならば、脳が、その記憶を再体験したがっているから。二度と同じ状況に自分と子どもが陥ることがないよう、脳を書き換えるために。
その体験を聞かされた側は、自分が危険な目に遭ったわけでもないのに、同じ知見が身に付く。
こうして、語ったほうも、聞いたほうも、子育て力が進化していくのである。
つまり、感情の揺れで記憶を再現しながら、とりとめもないおしゃべりができる女性こそが、子孫の数を増やしてこられたのである。当然、そういう女性の数が圧倒的に多いはずだ。
直感が働き、仕事の流れをつかむのがうまく、臨機応変で、ときに、感情の揺れに任せて「ことのいきさつ」をしゃべりだし、根本原因にたどり着く。これこそが、デキる女性脳の資質である。
しかしながら、男性脳型組織の中では、直感が「論理的でない」に、臨機応変さが「信頼できない」に、おしゃべりが「愚か」に、根本原因を追究する態度が「強情」に見えてしまう。
男性には、こういう女性の資質を理解しておいてほしいが、女性の側も、自分の「美しい素質」が、誤解されやすいことを知っておいたほうがいいと思う。
黒川 伊保子
株式会社感性リサーチ 代表取締役社長
人工知能研究者
1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(現富士通)で14年間にわたり人工知能(AI)開発に従事。その後、コンサルタント会社などを経て、株式会社感性リサーチを創業。独自の語感分析法を開発し、これを応用したネーミングで新境地を開いた。
AIと人間との対話を研究する過程で、男女の脳では「とっさに使う神経回路」の初期設定が異なることを究明。これらの知見を活かした著作も多く、ベストセラー『妻のトリセツ』(講談社)をはじめとするトリセツシリーズが人気を博している。ほかに『成熟脳』『共感障害』(いずれも新潮社)、『ヒトは7年で脱皮する』(朝日新聞出版)など。