“脳の選択”は「生殖と生存」のためになされる
先ほど、職業人の年齢層だと、「ことのいきさつ」派は女性に圧倒的に多く、「今できること」派は男性に圧倒的に多いと述べた。実は、12歳までの男女と、50代半ば以降の男女では、こんなにはっきりとは分かれない。定年夫婦には、「ことのいきさつ」を語りたがる夫に「今できること」でバシッと返す妻という組み合わせも少なくない。
年齢で傾向が出る理由は、この脳の選択が「生殖と生存」のためになされるからだ。生殖が可能な年代の男女ほど、性差は強く出る。子育て中の夫婦は、その最たるペアである。
男性脳は「狩人の末裔(まつえい)」
男性の脳は、何万年も、狩りや縄張り争いをしながら進化してきた。荒野に出て危険な目に遭いながら、仲間と命を守り合い、確実に成果を挙げて帰ってこられる男性だけが、子孫の数を増やしてこられたのである。当然、ことが起これば、「今できること」に反射的に集中する脳が、数多く生き残ってきたのに違いない。
また、男性全般に、敵味方や勝ち負けがはっきりすることを好み、ゴール(成果)を目指すことに本能的な快感を覚える傾向が強いはずである。そういう個体が、狩りや縄張り争いの現場で、生き残りやすいからだ。
さらに、危険察知能力も高くなければ、生き残れない。ということは、「想定外」「不測の事態」に対する脳の反応が強く、かなりストレスが高いはず。というわけで、男性脳は「定番」や「規則」を愛し、ルールや序列を順守する仲間を信頼する。直感が働き、臨機応変に動ける人間を、「会社に必要だ」と言いながら、好ましく思うことはできない。
勘と臨機応変が売りの女性脳からしたら、言いたいことが山ほどあるだろうけれど、組織を動かすためには、この感性が不可欠なのである。
それを知ってから私は、頭の固い男性管理職を、本当に愛しいと思うようになった。大きな屋根をこうして誰かが支えてくれるから、その下で、私は自由に走り回れるのだ、と。
行きつけの床屋や飲み屋に何十年も通い、実態に合わない規則もかたくなに順守し、成果にこだわるおじさまたちの正体は、「狩りと縄張り争いに勝ち抜いてきた精鋭男子の末裔」であることの証明なのである。
男性たちのこういう脳の傾向は、脳そのものにも内在されているし、男性ホルモンのアシストも受けている。
男性ホルモン=テストステロンが、闘争心や縄張り意識、独占欲を掻き立てるのである。「根拠のない、明るい自信」を生み出し、冒険心も創り出す。
男女の脳は同じ、と言う人がいるけれど、同じであるはずがない。狩りと子育てでは、「とっさに使う神経回路」が、同じでいいわけがないもの。