(※写真はイメージです/PIXTA)

脳には「とっさに使う神経回路」があり、その回路は人によって異なります。例えば転びそうになった時、とっさに右手を出すか、左手を出すか。驚いた時、跳び上がるか、のけぞるか。このような所作・動作の違いは、人間関係のすれ違いの大きな原因にもなりえます。黒川伊保子氏の著書『職場のトリセツ』(時事通信社)より、「身体の動かし方が、意識の違いを生み出す」を見ていきましょう。

「とっさの身体の動かし方」は大きく分けて2種類

所作・動作の違いも、人間関係のすれ違いの大きな原因になってしまうので、バリエーションがあることを知っといたほうがいい。

 

冒頭にも述べたが、驚いた時、上体を上げる(ひょんと跳び上がる、または、肩をきゅっとすくめる)人と、上体を低くする(肩を落として身構える、または、のけぞりながら後ずさる)人がいる。

 

実はこれ、前者が指先に力と意識が集中するタイプ、後者が手のひらに力と意識が集中するタイプなのである。このタイプは生まれつき決まっていて、一生変わらない。

指先タイプ VS 手のひらタイプ

もちろん、誰もが指も手のひらも使うのだが、力を込める必要があるとき、あるいは集中力が必要なときは、それぞれ自分のタイプを優先させる。

 

吊革につかまるとき、指先タイプは、指先でぶら下がる。握り込むと、かえって力を込められない。

 

吊革につかまるとき、手のひらタイプは、吊革を手のひらで握り込む。指先だけでは、力が込められない。

 

手のひらタイプの私は、吊革に手首を入れて、手首をだらりとかけるのも好き。身体が安定してどんな揺れにも対応できるから。

 

瓶の蓋を回すときも、指先タイプは指に力を込める。

 

手のひらタイプは、手のひらを蓋に密着させて、手のひらに力を込めて回す。ペットボトルのような小さな蓋でも、手のひらで包み込む。ただし、蓋が回り始めてからは、指を使う。

自分にとっての正解が「みんなの正解」とは限らない

指先タイプは、物を扱うとき、指先を使うので、自然に手首をよく回す。手の構造上、指先を全方位に動かすためには、手首を自在に動かす必要があるからだ。手首を自由にするために、ひじはあまり体側から離さない。

 

このため、扇子で顔をあおぐときは、ひじを体側に付けて固定し、手首を使って、比較的高速でパタパタとあおぐことになる。

 

手のひらタイプは、物を扱うとき、手のひらを添えるので、ひじをよく動かす。手のひらをあらゆる方向に使うためには、ひじを自由に動かす必要があるからだ。

 

このため、扇子は、ひじを体側から離して、ひらひらあおぐことになる。高速ではないが、強い風を起こせるので、涼しさに優劣はない。

 

なお、狭い場所では、手のひらタイプも手首高速パタパタをするので、扇子を自己判定に使うときは、ひじを遠慮なく浮かすことができるくらいの、広めの場所でお確かめください。

 

縄跳びの縄も、指先タイプは、ひじを体側に近づけて固定し、手首で回す。手首で反動をつけて、縄を跳ね上げるように回すのである。

 

手のひらタイプは、ひじの反動をつけて、縄を振り下ろすようにして回す。

 

このため、長縄跳びで、異なるタイプの二人が両端を持つと、縄がしなって、なかなか安定しないのだ。片方が跳ね上げるようにして回し、もう片方が、振り下ろすようにして回すから。

 

ならば、同じ二人が回せばいいかというと、そういうわけでもない。回し手が同じタイプで揃うと、逆のタイプの子が跳びにくいからだ。「振り下ろす、振り下ろす」というふうに回される縄の中に、跳ね上げるセンスの身体は入りにくい。逆もまたそう。最強のチームを作るつもりならば、全員同じタイプにすべきだが、みんなで仲良く跳ぶのであれば、違うタイプのペアが互いを気遣って回すのが一番いい。どちらのタイプの子も跳びやすくなる。

 

そう考えてみると、すべての組織が、そうなのではないだろうか。タイプの違う者同士が互いに気遣って組織を回すとき、その組織は、最もうまくいくのに違いない。

 

逆上がりも、やり方がまったく違う。指先タイプは、みぞおちを鉄棒に近づけて、手首の反動でくぃっと上がる。手のひらタイプは、みぞおちは鉄棒から離し、ひじの遠心力でぶんっと回る。前者は、おへそより上の部分が鉄棒に触れ、後者は、おへそより下の部分が鉄棒に触れる。

 

子どもに縄跳びや逆上がりを教えるとき、違うタイプの指導者がやり方を細かく強要すると、その子はけっしてうまくできない。運動音痴というレッテルを貼られてしまうことになる。実際に、手のひらタイプの子に「ひじを体側に付ける」ことを強要して、「縄跳びの跳べない子」にしてしまった実例もある。

まっすぐ派 VS 斜め派

また、指先タイプにも手のひらタイプにも、「まっすぐ派」と「斜め派」が存在する。つまり、対象に対して、身体をまっすぐにしたほうが力が出せる人と、斜めにしたほうが力が出せる人。

 

壁を全身で押してみてほしい。壁に対して、肩がまっすぐ(平行)な人はまっすぐ派、肩を斜はすに構えて押す人は斜め派である。斜め派は、足が前後に離れ、前の足と後ろの足の向きも違う。これに対し、まっすぐ派は、足の向きが揃い、位置もそう離れない。

 

まっすぐ派は、机にまっすぐ座り、ノートもまっすぐにして、まっすぐ書く。当たり前のように感じるかもしれないが、斜め派は、ノートを斜めにするか、自分が斜めに座らないと、まっすぐ書けない。お習字のときに、無理やりまっすぐ座らされて、字も、字の並びも、なんだか斜めになってしまうのは、斜め派の子どもたちである。

 

まっすぐ派は、机の上の道具を、まっすぐに揃えたがるが、斜め派は、扇状に配置したほうが使いやすい。まっすぐ派からすると、斜め派の机は、散らかっているように見えることがあるらしい。私は、「大きく斜め派」(手のひらタイプの斜め派は大きく斜め、指先タイプの斜め派は小さく斜め)の子どもだったので、まっすぐ派の先生によく叱られた。ダンスをやるようになってからは、身体を斜に構えるポーズがうまくてセクシーだと褒められるようになった。本人は、しゃきっとまっすぐしているつもりなのに(苦笑)。

互いにとっての正解が違えば、「正義」も違う

これを、職場に置き換えてみればいい。

 

身体や道具を使う仕事で、その使い方を細かく指導するのは、考えものである。「何をどうすべきか」を教えたら、あとはある程度、本人の裁量に任せたほうがいい。

 

また、脳は「自分のやり方」を最も理にかなって美しいと思い込むので、それも気をつけなければいけない。別のタイプから見たら、「美しさ」も違うのである。

 

わが家は、私たち夫婦と息子夫婦との同居生活なのだが、過去に1回だけ、嫁姑問題が勃発しかけた。原因はトイレブラシである。

 

ある日、およめちゃんが、「わが家のトイレブラシは使いにくいから、新しいの買ってきたよ~」と、私の愛用のブラシを捨ててしまった。

 

これが、我慢できないほど使いにくかったのである。ふちの汚れがうまく取れない上に、顔にしぶきがかかる(!)。私は、仕方なく、自分の好みのタイプのブラシを買い直してきた。

 

それに、息子が腹を立てたのだ。「せっかく使いやすいのを買ってきたのに、こんなダメブラシを買ってきて。彼女、悲しんでるよ」と。私が「ダメブラシってどういうこと? 私がメインでトイレ掃除をしてるのに、なぜ、私が、水が飛び散るブラシで我慢しなければならないわけ?」と返したら、「こんな使いやすいブラシで、飛び散るほうがおかしい」と言い返された。

 

28年続いた私と息子の愛もおしまいだな、と思った瞬間、私は気づいたのだ。そうだ、身体のタイプの違い!

 

およめちゃんは指先タイプ、しかも人差し指に力を込める癖がある。このため、トイレブラシの柄に人差し指を当てて、前にきゅっきゅっと押して使う。ふちにまっすぐ当たるので、平たいへら型ブラシがぴったりなのである。

 

私は、手のひら派、しかも薬指に力を込める癖がある。このため、ブラシを握り込んで、外に向けて回しながらふちに当てる。ブラシの腹がふちに当たるので、厚みのある、棒状のブラシがありがたいのだ。私がへら型ブラシを使うと、へらがよじれて、ふちに当たって跳ね返る。ぴしゃっと汚水が跳ね上がるわけ。

 

なるほどね、と、お互いに納得し合って、事なきを得た。

 

息子は最初、「世にも使いにくいブラシに固執して、嫁の親切を受け入れない偏屈な母。しかも不器用」という烙印を押したし、私はひどく傷ついた。

 

もしも、「身体の動きの種類」を知らなかったら、私たちの誤解は解けず、互いの心に深い傷を残したに違いない。きっと今ごろ、別々の家に暮らしていたと思う。

 

同じような誤解が、きっと職場でもあると思う。

 

上司と部下が違うタイプだった場合、使いやすい道具も、その道具の使い方も違う。「この世に正しい方法は一つ」と思い込んでいれば、相手がぞんざいで邪道に見える。つまり、正義さえもすれ違ってしまうのである。

まとめ:人類の身体タイプは4種類

身体の動かし方のタイプを、まとめようか。この世には、つごう4種類の身体タイプがある。

 

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①指先タイプ/人差し指優先【斜め派】

②指先タイプ/薬指優先【まっすぐ派】

③手のひらタイプ/人差し指優先【まっすぐ派】

④手のひらタイプ/薬指優先【斜め派】

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骨の構造上、①④にはまっすぐ派はおらず、②③には斜め派はいない。

 

驚いた時、①タイプは跳び上がり(上体がひょんと上がる)、②タイプは肩をすくめて固まる。③タイプは肩を下げて身構えて固まり、④タイプはのけぞって退く。

 

先に、跳び上がるタイプと、のけぞって退くタイプは、前後の布陣が取れると書いたけど、4種類揃えば、①は前に出て高く、②はその場で高く、③はその場で低く、④は後ろに低く態勢を取れることになる。それぞれに右利きと左利きがいれば、完璧な面の布陣が、とっさに取れるのである。4タイプすべてが揃えば、チームは最強なのだ。

 

 

黒川 伊保子

株式会社感性リサーチ 代表取締役社長

人工知能研究者

 

1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(現富士通)で14年間にわたり人工知能(AI)開発に従事。その後、コンサルタント会社などを経て、株式会社感性リサーチを創業。独自の語感分析法を開発し、これを応用したネーミングで新境地を開いた。

AIと人間との対話を研究する過程で、男女の脳では「とっさに使う神経回路」の初期設定が異なることを究明。これらの知見を活かした著作も多く、ベストセラー『妻のトリセツ』(講談社)をはじめとするトリセツシリーズが人気を博している。ほかに『成熟脳』『共感障害』(いずれも新潮社)、『ヒトは7年で脱皮する』(朝日新聞出版)など。

※本連載は、黒川伊保子氏の著書『職場のトリセツ』(時事通信社)より一部を抜粋・再編集したものです。

職場のトリセツ

職場のトリセツ

黒川 伊保子

時事通信社

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