(※写真はイメージです/PIXTA)

脳にはとっさに優先して使う神経回路があり、その優先回路は人によって異なります。例えば何か問題が起こったとき、「ことのいきさつ」から根本原因に触れるタイプか、「今できること」に集中するタイプか。この違いがあることを知らなければ、互いを誤解し、人間関係のストレスに繋がります。人工知能研究者・黒川伊保子氏の著書『職場のトリセツ』(時事通信社)より、「この世の『問題解決』には2種類ある」を見ていきましょう。

「ことのいきさつ」派への“悲しい誤解”

この世には、とっさに、「ことのいきさつ(プロセス)を反芻して、根本原因に触れようとする脳」がある。

 

あえて、「探る」ではなく「触れる」を使った理由は、本人の感覚はまさにそれだからだ。意図的に「ああかな、こうかな」と探っているのではなく、感情の赴くままに記憶を手繰(たぐ)っていくうちに触れるのである。そして事実それが、たいていは問題の核心なのだ。意図すなわち大脳の思考処理では見つけられない、直感の領域にある真理である。

 

感情の赴くままに、記憶を手繰る。

 

つまり、この脳の持ち主は、感情が揺れるのに任せて、ことのいきさつをつらつらとしゃべるわけ。「あの人にこう言ったらこう言われて、こんなことがあって、あんなことがあって、やっぱりひどすぎる」というように。脳の中で、記憶を再体験し、そこに潜むヒントに触れようとしているのだ。

 

で、いきなり、「そういえば、あの一言で、あの人の態度が変わったけど…あれが、原因? そんなところにコンプレックスがあったのね。だとしたら、私も無神経だったわ」のように、一気に問題の核心に触れるのである。

 

当然、極上の「脳の問題解決機能」なのだが、会話だけを聞いていると、問題解決に向かっているようには見えない。これが、悲しい誤解を生む。

 

「今できることに集中する脳」からすれば、問題解決しようとする意志が見えない(問題を混ぜくり返しているだけ)、感情的すぎる、愚かだと感じてしまう。

 

一方で、「ことのいきさつ」派は、仕事の流れをつかむのも、他者の気持ちをくむのもうまいので、「勘が働く」「呑み込みが早い」「仕事に抜けがない」「人当たりがいい」「想像力が豊か」など、日ごろはプラスの評価も多く受けている。

 

このため、「あの子はとても優秀なんだけど、問題が起こったときに感情的になって、こっちの話をわかろうともしない」という総体評価になりやすい。

 

ほら、そう言われている女性社員が周りにもいるのでは? 職業人の年齢層だと、「ことのいきさつ」派は女性に圧倒的に多く、「今できること」派は男性に圧倒的に多いので、どうしても、デキる女性職業人の評価が、おおむねそうなってしまうのである。

 

「感情的になって、こっちの話をわかろうともしない」という点だけ、誤解である。共感して、ねぎらいながら話を聞いてやれば、「核心を突く答え」を出して、ホームランを打てるのに。たとえ答えが見つからなくても、「感情の揺れと記憶の再生」を一回りすれば、「今できること」に集中するモードに切り替わるのに。

 

しかしながら、同じ局面で、いきなり「今できること」に集中したほうは、それを待てない。さて、どっちが悪いのだろうか。

 

もちろん、どちらも悪くない。

 

「今できること」派にとって「ことのいきさつ」派は、自分の言動にブレーキをかける厄介な存在。「ことのいきさつ」派を、黙らせようとするのは、自分の脳を最大限に有効に使うための当然の選択である。

 

どちらも悪くない。しかし、何も知らずに、自分の脳の赴くままに振る舞えば、確実に2者間にストレスが生じてしまうのである。だから、今のままでいいというわけじゃない。

 

まずは、この世の問題解決には、「ことのいきさつ」と「今できること」の2方向があって、それに伴う対話方式が違うと知ること。新しいコミュニケーションの夜明けは、そこから始まる。

次ページ女性社員の大多数が「ことのいきさつ」派になる理由

※本連載は、黒川伊保子氏の著書『職場のトリセツ』(時事通信社)より一部を抜粋・再編集したものです。

職場のトリセツ

職場のトリセツ

黒川 伊保子

時事通信社

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