「なぜ言われたとおりにしないんだ?」職場のイライラ…根本原因は「脳」にあった (※写真はイメージです/PIXTA)

「なぜ言ったとおりにしないんだ?」「自分ならこうするのに」「なぜ、部下はわかろうとしないのか」。古今東西、職場にうずまく人間関係のイライラもやもや…。実は、その原因は「脳」にありました。人工知能研究者・黒川伊保子氏の著書『職場のトリセツ』(時事通信社)より、「脳にはバリエーションがある」を見ていきましょう。ストレスを招く原因がわかれば、対処法も見えてきます。

「言ったようにしない」のは、“脳の種類”が違うから

多くの人は、「脳は万能で、誰もが同じ脳を持っている」と思い込んでいる。誰でも、やればできるのだ、と。だから、「言ったようにしない(できない)相手」を愚かで不誠実だと断じるのである。

 

ところが、脳には種類があるのだ。

 

たしかに脳は、機能の取り揃えで言えば万能である。誰もが、同じ器官で構成された脳を持っている。しかしながら、常に万能に使えるわけじゃない。ヒトがとっさに使える神経信号の数には限りがあるからだ。何かの判断をする刹那(せつな)、脳はほんの一部しか使えない。

 

このとき、「どの一部」を使うかを迷うのはかなり危ない。このため、脳は、「とっさに優先して使う神経回路」をあらかじめ決めている。その「優先回路」にバリエーションがあるのである。

人類に利き手がある理由

たとえば、利き手。

 

脳が右半身と左半身をまったくイーブンに認知していたら、身体の真ん中に飛んでくる石を避けられない。「どっちに身体を傾けるべきか」を判断していたら間に合わないからだ。転んだ時も、「どっちの手を出すのが有利か」なんてジャッジしている暇はない。このため、脳は、どちらの手を優先的に使うか、あらかじめ決めているのである。

 

それが利き手だ。利き手のない人類がいたとしたら、生存可能性が著しく低いはず。転んでも手をつけず、崖から滑り落ちそうになっても、とっさに岩にしがみつけない。その証拠のように、利き手のない民族など、この地球上のどこにもいない。

「とっさに違う言動を取る相手」はあなたを高める存在

あるいは、驚いた時、跳び上がる人と、のけぞる人がいる。

 

驚いた次の瞬間、跳び上がる人(上体がひょんと上がる人)は前のめりに着地して、高い体勢になり、のけぞる人(上体をあおって、後ろに下がる人)は後退して低い体勢を取る。突然の攻撃を受けた時、このペアは、とっさに高低差のある前後の布陣を取れるのである。さらに二人の利き手が違えば、左右にも幅のある布陣になる。

 

違う者同士がペアになれば、あるいはチームを組めば最強である。社会的動物である人類の脳に、自然界がもたらした、素晴らしいシステムだ。

 

ヒトの「とっさの視線の走らせ方」にも、2種類ある。

 

危険を感じて不安を募らせたとき、「比較的広い範囲を見て、動くもの、あるいは危険なものを探す」か、「身の回りを満遍なく見て、気配さえも見逃さない」か、ヒトは、とっさに、このどちらかを使う。

 

もちろん、手も体勢も目線も、思考する余裕のある時はいずれも使える。高度に訓練された者なら、素早く切り替えるので、優先側がないように見えるかもしれないが、「最初に選ぶ側」はいつも一緒のはずだ。

 

ちなみに、荒野に出て狩りをしながら進化してきた男性の脳には、「遠くの動くもの(危険なもの)に瞬時に照準が合う」派、子育てをしながら進化してきた女性の脳には、「近くを満遍なく」派が圧倒的に多い。

 

大切なものに危険が及んだとき、男は、外敵に瞬時に意識を集中し、女性は大切なものからひとときも意識をそらさずに守り抜く。そうやって、人類のつがいは、命を守ってきたのである。

「自分と違う人」にイラつくのではなく、“祝福”しよう

ところが、とっさに違う行動を取る相手を、人は不快に思う。

 

相手の意図を探るからだ。「自分ならばこうする」のに、そうしない相手を愚かで薄情だと感じてしまう。あるいは、「やればできる」のに、「やる気がない」からできないのだと思い込んでしまうのである。

 

とっさの優先回路にバリエーションがあることは、人類繁栄のための素晴らしいシステムなのにもかかわらず、自分と違う相手にイラつく。私はそれを、「人類の自家中毒」と呼んでいる。自家中毒とは、自らを守るための生体システムが、自分自身の健康を損ねてしまうこと。

 

本稿で提案したいのは、「脳には種類がある」ことを知って、「とっさに違う言動を取る相手」を祝福しようということ。

 

特に、コミュニケーションに使われる回路は、たった2種類しかない。この世のコミュニケーション・ストレスなんて、その2種類がすれ違っているだけなのである。

最強のペアは、ときに「最高に腹立たしい相手」となる

 

問題が起こったとき、「ことのいきさつ」を反芻して根本原因を探ろうとする人と、「今できること」に集中する人がいる。

 

こう書くと、「どちらもチームに必要不可欠」「二人がペアなら最強だ」と、誰でも思うに違いない。

 

ところが、現実にそうだと、二人はけっこういがみ合うことになる。なぜなら、対話のスタイルが違い、足並みが揃わないから。相手が愚かに(あるいはひどい人に)見えて仕方ないのだ。

 

実は、世界中のほとんどの夫婦が、「とっさに逆の言動を取るペア」なのである。

 

ことが起こったとき、夫婦はたいてい、イラつき合っていないだろうか? 最強のペアが、ときに最高に腹立たしい相手になる、という証明が、世界中に転がっている。

 

 

黒川 伊保子

株式会社感性リサーチ 代表取締役社長

人工知能研究者

 

1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(現富士通)で14年間にわたり人工知能(AI)開発に従事。その後、コンサルタント会社などを経て、株式会社感性リサーチを創業。独自の語感分析法を開発し、これを応用したネーミングで新境地を開いた。

AIと人間との対話を研究する過程で、男女の脳では「とっさに使う神経回路」の初期設定が異なることを究明。これらの知見を活かした著作も多く、ベストセラー『妻のトリセツ』(講談社)をはじめとするトリセツシリーズが人気を博している。ほかに『成熟脳』『共感障害』(いずれも新潮社)、『ヒトは7年で脱皮する』(朝日新聞出版)など。

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    人工知能研究者 

    1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(現富士通)で14年間にわたり人工知能(AI)開発に従事。その後、コンサルタント会社などを経て、株式会社感性リサーチを創業。独自の語感分析法を開発し、これを応用したネーミングで新境地を開いた。

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    著者紹介

    連載職場のトリセツ ~人工知能研究者が教える「職場ストレスの原因」と「無敵の対処法」

    ※本連載は、黒川伊保子氏の著書『職場のトリセツ』(時事通信社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    職場のトリセツ

    職場のトリセツ

    黒川 伊保子

    時事通信社

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