居酒屋・繁盛店、緊急事態宣言下の休業中にIT化推進…客単価120%増を実現したDX事例

居酒屋・繁盛店、緊急事態宣言下の休業中にIT化推進…客単価120%増を実現したDX事例
(※写真はイメージです/PIXTA)

DXを「実施していて成果も出ている」日本企業は、わずか13.5%、ほとんどのDXプロジェクトが期待どおりになっていません。では、実際にDXを推進し、成功した企業はどのようなプロジェクトを実施したのでしょうか? 今回は繁盛していた居酒屋が、緊急事態宣言で打撃を受けるも、休業中にIT化を推進し、客単価増に至った事例について、DXコンサルタントである株式会社日淺の日淺光博代表が評価・解説します。

 

“DXコンサルタント”日淺氏によるプロジェクト評価

※プロジェクトの対応を☆により評価

 

【経営者の対応】★★☆

経営のシステム化に取り組んでいく姿勢は非常にいいと思います。決済方法も多様化していますし、大手サイト依存の集客では今後の店舗展開にはリスクがあります。独自のしくみを構築するいいタイミングではないでしょうか。

 

今回は外部コンサルを起用するという決断をしましたが、本部機能としてITにくわしい人材を採用するという選択肢も検討すべきと思います。

 

【DX推進担当の対応】★★☆

外部コンサルを活用しての推進なので、人選さえ間違えなければ目指す姿に近づけるでしょう。ただ経営者が実質的な担当なので、万が一なにか起こった際にすべて止まってしまうリスクが。推進担当を一人でも立てられれば、より安全に進められます。

 

【現場責任者の対応】★★☆

推進担当と同様ですが、現場で導入が完了するまですべて経営者が目を向けるのは負担が大きいですし、多忙ゆえ停滞するリスクも。その点はマイナスですが、うまく機能するかのチェックとテストを重ね検討するという工程を踏んでいるので、現場としては安心感があるはずです。

DXにより得られたインセンティブ

コロナ禍でも接触頻度を減らして安心・安全の居心地いい空間を実現。また注文業務やレジ業務の効率化が進み、現場の負担が減りました。そのぶん手厚い接客ができたことで、客単価が120%アップ。顧客満足度が上がり、リピーターも増えました。キャッシュレス決済の導入やオーダーの分析にも繋がり、店舗のIT化が格段に進んでいます。

 

今回のケースからの学び

〈飲食店のDXは「無料」と「導入しやすさ」から始めよう〉

さまざまなサービスがありますが、オーナーといっしょにすぐできることから始め足元を固めるのが大事です。課題を整理しつつ見ていきましょう。

 

1.すぐにできることを見つけ、すぐ始める

コロナ禍で多くの企業が導入したのが、ウーバーイーツを始めとしたデリバリーサービスです。多くの企業が導入する一方で、ある程度儲かっている飲食店は導入しなかったと分析しています。

 

こうした店舗の特徴は、TwitterやインスタグラムなどのSNSでファン向けの発信をしていたり、GoogleMapsに情報をきちんと掲載しコメントに返信をしていたり、食べログやぐるなび、ラーメン店であればラーメンデータベースなどの情報を定期的に更新していたり、ホームページを頻繁に更新したりと、お金をかけずにできることに注力しています。

 

複数店舗を経営している場合、店長どうしの会議にZoomなどを活用するのも、その1つです。新しいサービスを導入する前に無料、あるいは月額数千円など少額で始められることを検討しましょう。そして場合によっては止めるという選択肢もあるなかIT投資を考えるのがベストです。

 

2.経営者として大事にしたいことを考える

IT投資はあくまで手段で、それ自体が目的ではありません。飲食店は日々の売上アップや店舗運営、採用などにかなりの時間を割かれるため、並行してデジタル化を進めるのは容易ではありません。

 

よくあるのが「これを導入したら楽になる」という言葉に乗せられ安易に導入するケースです。多忙ゆえ飛びつきたくなる気持ちはよくわかりますが、ひと踏ん張りすべき。経営者として、また経営する飲食店のブランド価値として、導入が何をもたらすかを事前に考え尽くすことが必要です。飲食店にかぎらず、IT投資には「なんのため」という大義名分が重要な意味を持ちます。

 

収益を上げる、人材育成、オペレーションを楽にする、さまざまです。もちろんITサービスを提供する会社はこれらに直結する話をしますが、経営者自身が何を大事にするかで優先順位が変わります。

 

「いまは人材育成のとき」であれば、人材育成のためのITサービスから導入すべきですし「オペレーションを変えるとき」なら、そのためのサービス。「新たな収益モデルを期するとき」なら、それに準ずるものを導入する。IT投資を考えると同時に、経営者として何を大事にする時期かで優先順位を決めましょう。

 

3.目的に沿った無理のないIT投資を

この店舗では、無料でできることをひと通り共有し、経営者の考えも聞いた結果「お客様が安心して来店できる」が当面の目標になりました。除菌や清掃に力を入れるなど、IT投資に関係ないものも多いなか取り組んだのが、モバイルオーダーシステムの導入です。

 

モバイルオーダーシステムと申し上げると「お客様がタッチパネルでオーダーする端末」を思い浮かべる方が多いですが、そうではなくお客様自身のスマホでオーダーするしくみです。

 

入店時にQRコードが発行され、それを読み込むことで顧客自身の端末から注文できる居酒屋、専用のアプリを入れることでレジに並ばず注文できるファストフード店など、急速に普及しています。その背景には、店員との接触を減らしつつ店舗側が専用の機器を用意しなくていいという魅力があり、当時でもモバイルオーダーシステムの提供企業はすでに多く存在していたため10社以上が候補に挙がりました。

 

注文、決済、予約管理、多言語対応、販促までまかなえるものから、それぞれ注文と会計をシンプルに連携するものまでさまざまです。今回は注文と会計のみのシンプルなサービスを開始しました。

 

導入自体は1ヵ月ほどででき、お客様と従業員の距離も保てるため「お客様が安心して来店できる」にも直結します。その結果「従業員が安心して働ける」を構築すると同時に、お店からの情報発信も、他店より安心して飲食ができる場所という発信も考えられるようになりました。

 

今後は、さらに店舗拡大を望んでいるとのことで、予約管理システムや勤怠管理システムなど、情報収集とIT投資のバランスを考えながらDXを進めていくことになりました。規模にもよりますが、飲食店は大掛かりな投資よりも長期的に、考えながら少しずつ変化していくことが低リスクかつ成果を挙げやすい形です。

 

 

日淺 光博
DXコンサルタント
株式会社日淺 代表取締役社長

 

 

難しい話はもういいんで DXがうまくいく方法だけ教えてください

難しい話はもういいんで DXがうまくいく方法だけ教えてください

日淺 光博

サンマーク出版

DXを「実施していて成果も出ている」日本企業は、わずか13.5%。つまり、ほとんどのDXプロジェクトが期待通りになっていないということです。 その原因の多くは、じつは社内のすべての人にDXを推進することで得られるインセン…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録