(※写真はイメージです/PIXTA)

医師になり40年。定年退職後、北海道で初めての「こども便秘専門診療」を始めた小児外科医の感動のエピソード。
※本記事は、宮本和俊氏の書籍『たたかうきみのうたⅢ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

会うたびの涙 悲しみから喜びへ

22歳のお嬢さんが、母とともに小児外科外来を訪れてきました。

 

「企業への就職にあたり、呼吸器科の診断書が欲しくて旭川医大を受診したのですが、どうしても宮本先生にも会いたいと言っています」とナースが言うのです。

 

カルテの名前を見て、懐かしさに残り少ない頭髪が逆立ちそうな気がしました。そうか、あれからもう22年もたつのか……。

 

1996年も暮れようとするクリスマスのざわめきの中、市内の病院で女の子・リセちゃんが誕生しました。呼吸状態が悪いことから気管内挿管(そうかん)され旭川医大に搬送されました。

 

診断は先天性横隔膜(おうかくまく)ヘルニア。産後間もない母に病状と手術につき説明しました。あまりの厳しい話に、母の目から涙があふれ出ます。

 

「元気な子に産んであげられなかった……」

 

48時間かけ人工呼吸器で全身状態が落ち着くのを待ち、生後2日目に、お腹を開けて横隔膜に向かう根治手術を行いました。横隔膜の欠損は大きかったのですが、何とかリセちゃん自身の横隔膜でふさぐことができました。

 

母もようやくひと安心……と、思ったのもつかの間、最初の手術から2週間たちそろそろ退院と考えていたお正月に、閉じたはずの横隔膜が突然開き、そこから腸が再び胸の中に脱出してしまったのです。

 

「緊急手術します!」と母に説明すると、母の目から大きな涙が次から次へとこぼれ落ち止まりませんでした。

 

「手術したからもう大丈夫と思っていたのに……」

 

手術は前回と同じ手術創で行いました。閉じたはずの横隔膜のうち一部が開いているだけだったので再び横隔膜を縫ったのです。今後も体の成長に横隔膜の成長が追いつかない時には再発もあり得ますと説明して退院となりました。

 

生後9ヵ月、丸々と可愛くなったリセちゃんを、外来でX線撮影した際、腸が再び胸の中に脱出し始めていることがわかり、3度目の手術を行いました。

 

母は、ハラハラと流れ落ちる涙をぬぐおうともせず、「泣いてしまってごめんなさい、覚悟はしていたのに……」

 

今度は胸から横隔膜に向かう手術を行い、人工膜のシートを横隔膜の穴にピッタリとかぶせました。生後1歳2ヵ月、なんとまた再発してしまいました。

次ページ「手術創でいじめられたことはないか」と心配すると

※本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『たたかうきみのうたⅢ』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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