ヒトラーも騙された〈二重スパイ〉の手口…実社会でも役に立つ「ニセ情報」を見分ける方法 (※写真はイメージです/PIXTA)

極限状態の中、どんな困難なミッションも完遂する「諜報員」。その成功の秘密は、「成果が出る“型”」を頭の中に入れていることにあります。あらゆる仕事に応用できる、誰もが実践できる諜報員のテクニックを、上田篤盛氏の著書『超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル』(ワニブックス)より一部抜粋してお届けします。

 

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疑うべき情報とは

諜報員は当然、情報が「本物か偽物か」を判断する能力に長けている。諜報員はニセ情報を流し、相手の思考と意思決定を混乱させる活動を時として行なうからだ。

 

自分がニセ情報に引っかかっていては話にならない。ニセ情報は見破られるようなものであってはならない。できるだけ本物らしくしなければならないが、ジョン・C・マスターマン『二重スパイ化作戦』では、次の3点が重要であるとの趣旨が述べられている。知っておけば、ニセ情報に惑わされにくくなる。

 

  1. ニセ情報相互の矛盾をあまり大きくしないようにする
  2. しかし、相互にあまり似すぎていてもよくない
  3. より信用できる情報資料源、すなわち空中偵察、新聞報道、捕虜の供述などと矛盾しないようにする

 

情報を評価(批判)する際に、「他の情報とかけ離れている」「つじつまが合いすぎている」情報は疑うべきだということだ。

ヒトラーがダマされた情報―ニセ情報の特徴とは?

ここで、史上最大の欺瞞(ぎまん)工作を紹介しよう。かつてのイギリスの首相ウィストン・チャーチルは謀略好きであったが、彼が行なった欺瞞工作で最も有名なのが「ミンスミート作戦」(挽肉作戦の意味)だ。この作戦は第二次世界大戦中の1943年に行なわれた。イギリス軍は連合軍の真の上陸目標であるシチリア島からドイツ軍の関心をなんとか逸らしたかった。

 

そこで、正体不明の死体をイギリス軍将校に偽装し、彼が不測の事故に遭遇したよう作為した。つまり、イギリス軍将校が重要な機密書類(作戦計画)を携行して運ぶ途中に航空機事故にあったように見せかけたのである。もちろん、この作戦計画は全くの偽物で、イギリス軍の上陸がシチリア島ではなく、バルカン半島であるかのように緻密に偽装したものであった。

 

イギリスはこの死体を、偶然にドイツ軍が入手するように、スペインのウエルバ沖の海岸から投棄した。それにドイツ側がまんまと引っかかり、連合軍の攻撃正面を見誤ったというわけだ。

 

さらに大がかりな欺瞞工作が「ダブルクロス作戦」である。その作戦の最大の成果が、ノルマンディー上陸作戦である。

 

1942年8月、友軍のカナダ第二師団を中心とする連合国軍約6000人の兵士がノルマンディー海岸(ポーツマス対岸)のディエップ付近に上陸した(ジュビリー作戦)。この作戦で連合国軍は多数の死者を出した。連合国軍の敗北は当然の結果であった。

 

なぜならば、ヒトラーはイギリスに侵入させていたスパイにより、連合国軍がディエップに上陸をすることを事前に入手し、待ち構えていたからである。

チャーチルが二重スパイにあえて行わせていたこと

しかし、チャーチルは一枚上手だった。彼は、ヒトラーが送りこんでいたスパイを、イギリス側の二重スパイとして獲得していたのである。ヒトラーが、スパイを依然として自分に忠実であると疑わないように、チャーチルは二重スパイに対し、ある程度の正確な情報を与えてヒトラーに報告させていた。

 

こうしてヒトラーは、ジュビリー作戦で連合国軍が予想地点に上陸したことにより、イギリスに展開しているスパイ網の有効性をますます確信するようになった。

 

2年後の上陸作戦では、上陸正面がノルマンディー海岸ではなく、カレー海岸(ドー
バーの対岸)であるかのように二重スパイを使って、「本格的な攻撃はカレー正面で
ある」とのニセ情報をドイツ軍上層部に流し続けた。それに加え、カレー正面対岸の
部隊を増強する陽動作戦を行なった。

 

だから、ドイツ軍は連合国軍がカレー正面に上陸するものと確信して、ノルマンディー正面の防衛を怠った。そのため連合国軍のノルマンディー上陸は成功した。チャーチルは「ジュビリー作戦の損害は大きかったが、その成果はそれ以上のものがあった」と彼の回想録の中で述懐した。

 

ニセ情報を判断するポイントは“かけ離れ”と“合いすぎ”

 

上田 篤盛

株式会社ラック「ナショナルセキュリティ研究所」

シニアコンサルタント

 

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    元防衛省情報分析官。
    1960年広島県生まれ。防衛大学校(国際関係論)卒業後、陸上自衛隊に入隊。2015年定年退官。
    在職中は、防衛省情報分析官および陸上自衛隊教官として勤務。93年から95年まで在バングラデシュ大使館において警備官として勤務し、危機管理などを担当。情報分析官としての経験、独自の視点から執筆する著書は好評を博している。
    『未来予測入門』(講談社)、『情報戦と女性スパイ』『情報分析官が見た陸軍中野学校』『戦略的インテリジェンス入門』『中国が仕掛けるインテリジェンス戦争』『武器になる情報分析力』『インテリジェンス用語事典(共著)』(いずれも並木書房)、『中国の軍事力―2020年の将来予測(共著)』(蒼蒼社)、『超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル』(ワニブックス)、『武器になる状況判断力 米軍式意志決定法とOODAを併用する』(並木書房)など著書多数。
    現在、官公庁および企業において、独自の視点から「情報分析」「未来予測」「各国の情報戦」などに関するテーマで講演を行なっている。

    著者紹介

    連載頭の回転の速さがカギ!ビジネスで成果を出すための「諜報員のダークスキル」

    本連載は、上田篤盛氏の著書『超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再構成したものです。

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    上田 篤盛

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