メモが取れないとき…人の話を「頭の中に記憶させる」技術
諜報員にとって、メモを取ることができない場面も度々あるのだが、私自身、聞き込みの場面で、メモが取れない状況に遭遇したことがある。やはり、一番安心なのは頭の中に記憶させること。聞き取ったことをしばらく覚えておいて、後から書き起こすことが大切だ。私の経験では、
「何を(what)聞くのか」
「何のために(why)聞くのか」
が明確になっていれば、案外話が記憶に残ることがわかった。つまり、目的意識を持つことが記憶するために重要なのである。
私は執筆業をやっているので、取材に出かけることもあるが、録音をすることはまずない。1時間程度の取材ならば、80%の口述を再現できる自信があるが、それはこの2つのことを意識しているからだ。
ひとつは、「何を聞き出すか」という問いを明確にすることである。そもそも、人の話を一言一句覚える必要はない。人間の脳は便利なもので、重要なものを覚えて、不要なものは忘れるようにできている。脳が記憶できるキャパシティを超えれば、不要なものはどんどん忘れるようになっているのである。
何を聞かなければならないか、何が重要であるかを明確にして、その答えをあらかじめ推測しておけばいい。さらに、聞き込みを事前にイメージする。おおむね、その答えに沿って聞き込みが進んでいれば、さらりと受け流しておけばいい。推測した答えと違えば「おや!」という刺激的な感情が生まれるので、それはそれで記憶に残る。感情を伴なう情報は記憶に残るからだ。
もうひとつ重要なことは事前準備である。たくさんのことを聞いて、その場で覚えようとするから無理がある。
あらかじめ聞き込み相手や取材対象の会社などについて公開情報で調べられるだけ調べておこう。わかっていることは確認するだけでいいし、事前に調べていることを一言一句記憶する必要などさらさらない。なお、短期記憶を長期記憶に転換することは重要であるので、事前準備に加えて復習を怠ってはならない。
──何を、何のために、という目的意識が大事