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今回の戦争が、日本に与える示唆

これら2つ、すなわち、国連安全保障理事会の機能不全と核保有国による軍事力の行使を目の当たりにすると、アジア地域での有事を考える場合、現在の戦争がそうであるように、日本は、同盟国である西側の覇権国に武器などの提供を受けつつ、「自分たちの手で自国を守る」ことになるでしょう。

 

「アジアでは有事は起きない」という人も大勢いらっしゃると思います。

 

しかし、その必要条件は、貿易上のつながりの強さではなく、強固な同盟を持つことと、域内のパワー・バランス(勢力均衡)を保つことにほかならないように思えます。

 

今回の戦争でいえば、①西側覇権国と今回侵攻を受けた国の間に(明確な)同盟がなかったことと、②「西側安全保障同盟の『東方拡大』によって、欧州地域のパワー・バランスが崩れていたことが戦争の一因とされ、国連加盟はもとより、(天然ガスの輸出入を中心に)ユーラシアの大国と欧州諸国との貿易上の結びつきは戦争抑止に効果を持ちませんでした。

 

日本の場合、同盟関係は以前よりも強固になっています。2016年の暮れに日本の首相(当時)が西側覇権国の次期指導者を説得し、アジアの大国に対する「関与政策」を「封じ込め政策」へと転換させました。政権が変わったいまも封じ込め政策は継続されています。

 

また、それに先立ち、集団的自衛権行使の限定容認と平和安全法制の整備を完了させたことも、同盟関係に大きく貢献しているといわれます。

 

見上げた空の青さは、タダで得られたものではなく、過去の政治判断にも負うものと考えられます。

 

他方で、防衛能力に関しては十分とはいえません。アジアの大国は国防支出を毎年7%程度のペースで拡大する一方、日本の防衛支出はほとんど横ばいで、地域のパワー・バランスは崩れる一方です。

 

[参考文献]

・E・H・カー著、原彬久訳『危機の二十年』(岩波文庫)
・花井等著『名著に学ぶ国際関係論』(有斐閣)
・岡垣知子著『国際政治の基礎理論』(青山社)
・ジョン・J・ミアシャイマー著、奥山真司訳『大国政治の悲劇』(五月書房新社)
・スティーヴン・M・ウォルト著、奥山真司訳『米国世界戦略の核心』(五月書房)
・John J. Mearsheimer “Why the Ukraine Crisis Is a West’s Fault: The Liberal Delusions That Provoked Putin” Foreign Affairs, 93(5) 2014
・John J. Mearsheimer and Stephen M. Walt “The Case for Offshore Balancing: A Superior U.S. Grand Strategy” Foreign Affairs, 95(4) 2016
・John J. Mearsheimer “The Inevitable Rivalry: America, China and the Tragedy of Great-Power Politics” Foreign Affairs, 100(6) 2021

 

 

重見 吉徳

フィデリティ投信株式会社

マクロストラテジスト
 

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