今回の戦争で改めてわかった3つのこと
今回の戦争で改めてわかったことが3つあるでしょう。
第1に、国連がそのもっとも重要な機能を失いつつあるということです。
集団的自衛権を認めた国連憲章第51条には「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間……」とあります。
国連加盟国が他国から侵略を受けた際には、本来であれば、国連安全保障理事会の常任理事国が国連軍を組織して加盟国を助けに向かうわけですが、今回は、その理由や背景はどうあれ、国連安全保障理事会の常任理事国が他国に侵攻を行ったわけです。
第2に、西側の覇権国は、核兵器を保有する侵略国に対して直接の武力行使を行わないかもしれないということです。
もちろん、①「経済制裁の次の手段として武力行使がある」という考えかもしれませんし、②「西側覇権国と今回侵攻を受けた国のあいだには、(明確な)同盟関係がないので集団的自衛権を行使しない」という立場かもしれません。
しかし、これまでの経済制裁や武器貸与の内容を見る限り、侵略を受けた国はともかく、少なくとも自国(西側の覇権国)に対しては核兵器が使用されない程度の支援に留めているようにみえます。自国の領土が核攻撃されるリスクは最小化して当然でしょう。
『オフショア・バランシング』
あるいは、国際政治学者のジョン・ミアシャイマー米シカゴ大学教授とスティーブン・ウォルト米ハーバード大学教授が提唱するように、西側の覇権国は『オフショア・バランシング』を一部採用しているのかもしれません。
オフショア・バランシングは、西側の覇権国が「世界のあらゆる場所で自由主義的民主主義を推進する」という、コストが極めて高く、実際に失敗を重ねてきた「大戦略」をとるのではなく、他の地域の同盟国に域内での新興国の台頭をけん制させ、必要な場合のみに介入するという政策です。
これにより、資本が効率的に使われて経済の生産性は高まり、財政はより持続可能な状態になって覇権はより長く保たれます。また、軍事力という公共財への「ただ乗り」も排除でき、民族主義者の恨みを買ってテロに遭うリスクも減ると考えられます。
合わせて、紛争が生じた場合には、まずは地域の同盟国に第1の防衛線(first line of defense)として当たらせるべきだとしています。これにより、自らの戦力の損耗を防げます。