「景気後退」先読み指標が出揃う
引き続き、金融市場では「米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ幅を縮小する」という観測から株価が戻っています。
他方で、①先週は、(FRBが好んで使う物価指数である)PCEデフレーターが前年同月比で+5.1%と伸びが拡大し、前月比でも+0.5%と高い伸びが続いていることが示されました。
「インフレが収まらず、大幅利上げ継続懸念で、株売り」となるかと思いきや、ダウ工業平均株価は828ドル上げて、6日続伸でした。当日の市況解説は「アップルの好決算」ということでしたが、筆者は「世界経済が景気後退に向かうなか、超高額商品を販売する巨大企業や、インターネット広告に依存する巨大企業の業績先行きはどうなのか」と疑問に思いました。
また、②先週は、米国の3ヵ月物国債利回りと10年物国債利回りが逆転しました(3ヵ月物>10年物)。景気後退を先読みする指標がさらに揃いました。
いまは分散のときです。
過去からみるドル高の「終わり」
[図表3]は、米ドルの平均為替レートと日米欧の政策金利の長期チャートを示したものです。1971年8月のニクソン・ショック以降、ドル高の局面は大きく見て「3回」あります。
月並みですが、ドル高とドル安の要因は、政策金利の差です。おおむね「米国が利上げをリードし、その水準をキープしてドル高」、「米国が利下げに転じ、金利差が詰まるとドル安」という流れです。
基本に立ち返れば、米国が利下げするときには、ドル安(円高)に幾分反転すると考えておくほうが自然です。それは、日本国内の投資家にとって資産運用の重要なポイントです。
とはいえ、1971年以降でみると、利上げや利下げのサイクルは「3回」よりももっと多かったわけですから、「ドルの大きな流れ」を考えるうえでは、金融政策以外のものをみておくほうがよいでしょう。それは、国際政治上の動向であり、国際政治が経済の動きに影響を与えているように思えます。
[図表4]を簡単に整理すると、①1985年までのドル高局面は、レーガン大統領の「力による平和」戦略に基づく軍拡で、米国がソ連を追い詰めていきました。
その後、②1985年にソ連でゴルバチョフ氏が共産党書記長に就任すると、やがて米ソは軍縮へと向かい、1991年に冷戦が終結します。資本は米国から、日本やアジア、ロシアなどに向かいます。この「ドル離れ」は、東西対立の心配が不要になり(≒平和になり)、「経済重視」になったことを反映しているように思えます。
次に、③2000年までのドル高局面は、バブルに沸いた日本やアジア、ロシアなどの新興国から、生産性革命に沸いた米国に資本が還流しました。
その後、④2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟すると、中国が「大国」になる過程で、ドル安となりました。中国のWTO加盟に道筋をつけたのはほかでもない米国でした。このドル安局面もまた、中国や新興国が世界経済に取り込まれる「平和」の局面でした。
最後に、⑤2016年からのドル高局面は、米中対立(米中貿易戦争を含む)や、ロシア=ウクライナ戦争など、再び東西対立・東西冷戦となるような動きのなかで、ドルへの資本還流が生じています。
簡単にいえば、西側の覇権国である米国が他の大国を封じ込めようとするときには「ドル高」となり、他の大国と融和を図ろうとするときには「ドル安」になるように思えます。
まとめれば、短期的には米国の利下げでドル安も、長期的には、農業と資源と半導体と軍事の大国である米国に資金が流入し続ける可能性があるかもしれません。
米国は準備通貨を供給する国です。これまでは、たとえ、米国経済が競争力のあるモノを生産・輸出できなくとも、輪転機を回して貨幣(ドル)を渡すだけで、世界じゅうからモノやサービスを買うことができました。誰もがドルを持つことで安心感を得られたためです。
しかし今後の米国は、準備通貨の発行に頼らずとも、農作物や資源、半導体、軍事サービスといったものの価値が(一般的な商品やサービス対比で)相対的に上がるなかで、これらと交換に他国からモノやサービスを買うことができます。それはドルの力を持続させるように思えます。