不動産の売却を成功させる有効な方法の一つは、「建物データの可視化」によってすべてをオープンにすることです。それによって、建物の安全性・健全性をアピールすることができ、価値が高まるのです。本記事では、不具合が発覚しトラブルを抱えていた都内のマンションを、結果として高値で売却することに成功した二宮さん(男性・60代※仮名)の事例を紹介します。

長く足場が掛かったマンション

本件はマンション管理士の資格を有しているエージェントBが担当しました。管理組合と販売施工側が協議中での売却は、タイミングとしては決して良いものではありません。まして補修が完了していない状態ですから、従来の相場よりも価格が低くなってしまう事態は避けられません。

 

そして何より具合が悪いのは、大規模修繕工事が開始して以降、協議中もずっとマンションには足場が掛かったままである点です。かれこれ2年近く、マンションは灰色のネットに包まれているのですから、通りがかった方や地域の不動産会社に「ここは何か問題が起きているに違いない、きっといわくつきのマンションなんだろう」と、悪い噂を立てられてしまうのは避けられません。

 

このタイミングで売り出したとしたら、不動産会社からは問題のあるマンションだと素っ気無い対応をされますし、内見希望者が足を運んでくれても足場が掛かったままの外観に難色を示す可能性もあります。

 

このような状況で従来の不動産仲介会社に相談したら、担当者はおそらく「今の状態では希望額よりはかなり値段を下げないと厳しい、今後修繕積立金が高くなる可能性もあるから、多少の値下げは我慢して早いうちに買主を見つけるのが得策だ」と説明するはずです。

 

いち早く売却して手数料を稼ぐことをミッションとする不動産仲介会社ですから、この時点で二宮さんとは利害関係が食い違っています。二宮さんがとにかく早い売却を望んでいるのであればこの提案を受け入れられるでしょうが、なるべく高く売ることが最大の望みです。本当に今売るべきかという視点から、じっくりマンションとそこで起きている問題に向き合う必要がありました。

 

担当エージェントBは、「焦る必要はありません」と二宮さんに言い、「現在行われている管理組合と販売施工側との話し合いが決着し、不具合の補修が終わって正確な建物価値が出てから売り出しを開始しましょう」とアドバイスしました。肝心の協議のほうは、グループ会社のコンサルタントが問題解決に取り組んでいたのですが、なかなか難航しており時間が掛かっていました。

 

法律の観点でいうと、住宅品質確保法には、販売会社や施工会社への瑕疵責任追及は「建ってから10年まで」と規定されています。大規模修繕は13年目に行われたので、その法律の対象範囲外となってしまい責任を問うことができません。

 

一方で、過失ではなく明らかな故意による設置ミスがあるため、これは民法における不法行為であるという指摘ができました。この民法の時効は20年であることから、そこを盾に管理組合サイドは抗弁する方針を打ち立てていたのです。

 

不具合の発覚からおよそ2年という、居住者の方々にとっては長い期間の忍耐を必要としましたが、協議の結果、修繕費負担は販売会社と施工会社が負うことで決着がつきました。

 

さらにそこからようやく大規模修繕の工事がスタートとなり、さらに1年を要することとなりました。その間も当然、足場は掛かったままで、トータルで3年間もネットに覆われたマンションが都心の一等地に建っていたことになります。

 

大規模修繕が完了し、マンションから足場が撤去され、ようやく、販売を開始しても問題ない状態になったのです。

 

大西 倫加
さくら事務所 代表取締役社長
らくだ不動産株式会社 代表取締役社長
だいち災害リスク研究所 副所長

 

長嶋 修
さくら事務所 会長
らくだ不動産株式会社 会長

悩める売主を救う 不動産エージェントという選択

悩める売主を救う 不動産エージェントという選択

大西 倫加,長嶋 修

幻冬舎メディアコンサルティング

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