物件の本当の価値がわかる買主と出逢うため必要なこと
強気な値段設定が影響し、売り出し後の反響はやはり少なめ傾向でした。建物の真の価値を広告ではなかなか伝えることができないもどかしさはありましたが、反響があるうちは値下げを視野に入れず、とにかく粘る作戦でいきました。
多くの問い合わせが、「築25年の戸建てがなぜこれほどの高値で販売されているのか」という疑問に紐づいたものでした。問い合わせてくれた方には担当エージェントBから詳細な経緯を説明しました。
同時に、「何年何月にどこにどのような修繕を施したか」を記載した過去の詳細な補修履歴と、インスペクションの診断結果、いいところも悪いところも含めたすべてを検討材料として提供していきました。建物の情報すべてを可視化することで、建物の安全性を十分に感じてもらい、資産性もあることを伝えるよう努めました。
この方法に、問い合わせてくる人は非常に驚きましたが、むしろ好材料として受け止められました。抱いていた疑問は好奇心へと変わり、「だからこの価格なのか」と納得してもらうことができました。さらに内見に来た人の大半が「築25年とは思えない、新築同様だ」と、担当エージェントBが初めて物件を訪れたときと同じような反応を見せていました。
ただ、建物に価値があることは理解してもらえても、2,680万円の額面にはなかなか納得してもらえませんでした。2,000万円台前半への値下げ要求が何度かありましたが、担当エージェントBは、その価格帯では建物の価値に見合っていない取引になると感じ、交渉に応じませんでした。
そのようななかで内見に来たのが、ある30代前半の夫婦でした。都内で賃貸暮らしをしていましたが、子育てや老後などこれから訪れる未来を考えたとき、早いうちに住環境を落ち着けておこうと、住まい購入を決意したといいます。予算2,000万円後半で、埼玉県内の新築戸建て物件を探し求めていました。
ただ、この予算で新築を探すとなると都心からかなり距離をおく必要があり、勤務地へのアクセスが不便になってしまいます。そこで、仁川さんの不動産がある地域周辺で中古物件を探している最中、本物件を見つけました。
「新築くらいの価格で中古の戸建てが売られているが、どんな家なんだろう」という他の人と同じ興味本位での内見問い合わせでした。すでに家は空室となっており、事前に鍵を渡す形で、夫婦だけで建物を見てもらいました。
一歩足を踏み入れた瞬間に夫婦はこの物件に一目惚れし、新築以上の魅力を感じ、「絶対にここに住みたい」と感じたそうです。加えてインスペクションにより、長く住んでも大きな不具合は出ていないという保証が、築物件にはない安心を与えたことも大きかったようです。新築とほぼ同額の中古でしたが、補って余りある価値を感じていました。
すぐに購入の申し出がありました。ただどうしても予算の部分で折り合いがつかず、値下げの要求がありました。なるべく売り出し価格の2,680万円で売りたい意向ではありましたが、「これほど欲しいと思ってくれる方になら」という仁川さんの思いもあり、2,500万円での売却となりました。
値下げの引き換え条件として、家の状態に納得してもらい、仮に引き渡し後に何か建物に問題が発覚したとしても売主への責任追及はしないという契約としました。インスペクションで安全性はほぼ保証されているのですから、買主は条件をすぐ受け入れてくれました。仁川さんとしては後々のトラブルを回避できる安心を買った分の値下げということで、両者納得のうえでの取引成立でした。