修繕直後の「第三者認定」で安全性・健全性をアピール
二宮さんのマンションは、大規模修繕が完了し、マンションから足場が撤去され、ようやく販売を開始しても問題ないタイミングとなりました。この時点でマンションは築16年目に突入していました。
二宮さんが不動産エージェントに相談に訪れたときから築年数を経たことにはなりますが、内見に来る方の心証を害する足場やネットはなくなりました。修繕途中よりも高い価格で販売できます。
「これでようやく売れる」と安堵する二宮さんに対し、担当エージェントBは、「ここからが本番です」と前置きし、「第三者機関」によるマンション検査実施を、マンションの管理組合に提案するよう言いました。
二宮さんは「大規模修繕が完了した直後というのに、もう検査を行うのか?」と驚いていました。しかし、建築確認申請を担う第三者機関が検査に入ることで不具合が間違いなく解消しているという品質保証を得られます。さらに、耐震等級も再び「2」を取り戻すことができます。担当エージェントBは、これら調査結果を購入検討者に事前に提示することで、マンションの価値をより感じてもらうようにする必要があると考えたのです。
二宮さんの意向は、不具合が発覚したことや修繕の過程は聞かれたら答える程度にして、わざわざこちらから提示する必要はないのではないかというものでした。しかし、担当エージェントBの意見は異なりました。
建物の過去を洗いざらいオープンにすることで、建物の健全性をアピールでき、購入検討者の安心材料とすることができます。それが資産価値に反映されて、売却価格も自ずと引き上げることができると考えたのです。
第三者機関による調査はマンション全体規模で実施するため、居住者の承諾がないと着手できません。管理組合にて議題に挙げてもらったところ、マンションの価値を引き上げる材料になるのであればと、速やかに承認されました。
「ネガティブ」を「ポジティブ」に変える魔法
後日、さっそく建築士による調査を実施しました。修繕によって問題点は解決されていることが第三者機関によって証明され、落ちていた耐震等級も元に戻すことが叶いました。このタイミングでいよいよ売り出しをスタートします。
価格は6,800万円としました。大規模修繕が一段落してからの販売は功を奏し、レインズ掲載直後から反響は止みませんでした。
しかし、問い合わせの仲介担当者は、「修繕にだいぶ時間を要していたようだが、本当に客に紹介して大丈夫なのだろうか」と不安げな様子でした。もちろん、これは担当エージェントBの想定内です。修繕の詳細な経緯や、第三者機関による調査結果の資料を渡すこと、内見時はBが口頭の説明も行うため安心して検討してもらえるはずだと丁寧に伝えました。
Bのこの申し出は、想定どおり買主サイドにプラスに響き、本物件ならではの強みをアピールすることができました。検査が行われていないマンションは、不具合がないのではなく、不具合があるかないかが分からない状態です。
対して本件のマンションは、過去には不具合があったものの、補修済みで安全であることが第三者機関の検査によって担保されています。
調査されていない建物と、調査して安全だと分かっている建物であれば、後者のほうがリスクは少なく、資産価値は大きいといえます。この点に安心と魅力を感じる方は多く、問い合わせから内見へとつなげることは比較的容易でした。
10組の内見申し込みがあり、現地では、担当エージェントBから、どういった不具合が発生し、どういった補修がなされて、修繕費の負担はどうなったのか、経緯を細かく説明しました。
内見した10組のうち3組から購入の申し込みがあり、価格を競る形となりました。最終的には7,100万円という最高値をつけた方に売却することとなりました。
販売開始から3週間弱ほどでの取引成立です。本マンションの売却実績としては過去最高の取引額でした。不具合の発見を安心材料につなげる。起きた事実を正しく把握し、修繕や検査など適切な措置を施して、ネガティブなポイントをポジティブに変えて売却する。
マンション管理士をもつエージェントならではの個性的な提案による、魔法のような売却プロセスでした。
売り出しからこんなに早く、しかも購入時よりも1,000万円以上も高く売ることができ、結果的に修繕が終わるのを待った甲斐もあって、二宮さんは喜ぶというより、想像以上の高値で売れたことにびっくりしていました。一時は不具合発覚のせいでかなり安く見積もられていた物件です。担当エージェントBも、売却タイミングの重要性を再認識しました。