日本の経営者が「人材不足」を感じるワケ
シンギュラリティ時代の「人材不足」
2020年7月12日の日本経済新聞に、「AIに五感、人間らしく複数のデータで察する力」という記事が出されました。「マルチモーダルAI」と呼ばれる技術によって、画像や音声、文書などの複数のデータを使い、AIがまるで人間が五感を通じて周囲を理解するように高度な判断をできる、そんな時代がやってこようとしているのです。
アメリカの人工知能研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル博士らが示した未来予測の概念に「シンギュラリティ」というものがあります。日本語では「技術的特異点」と訳され、AIが人間の能力を超えることで、今まで以上に人間の生活に大きな変化が起こることを示す概念です。
先の記事では、AIが五感を認知することで今まで以上に人間らしくなり、社会のさまざまな場面にインパクトをもたらす未来が近づいていることを示唆していますが、まさにシンギュラリティが確実に近づいていることを私に教えてくれました。
現在、日本には約385万社の企業が存在します。その中から個人経営(個人事業主)を除くと約188万社あり、その多くで「人材不足」が叫ばれています。人口減少によって労働人口は減り続け、結果的にどこも人手が足りず人材確保に奔走している、というニュースをよく見かけます。
ですが、私は「それは少し違うのではないか」と考えています。人材不足自体は事実であっても、それは「人手=人数」が不足しているのではなく、むしろ「人の品質」が不足しているのではないか、というのが私の見方です。「こういう人材が欲しいのにうちにはいない」ということを、「人材不足」という一言で片付けてしまっているように思えてなりません。
これまで、企業におけるさまざまな活動は人間の手によって行われてきました。営業活動、事務作業、商品開発、サービス提供、そして人材採用まで、すべては人の手を介して相手に届けられる世界でした。パソコンやスマートフォンやコピー機などのさまざまなオフィス機器の登場により、それらはかなり効率化されてきましたが、それでもやはり、何かしら人の手が必要でした。
ところが、これからの未来を考えるときに、これまで人の手がかかっていた部分をAIやロボットに代替させ、自動化やDX(テクノロジーによって仕事をどう効率化していくか、生産性を上げるか)が推奨されるようになると、今までのような「定型業務=言われたことをやる業務」が人間でなくてもできるようになっていきます。
一方で、これからは「人間でないとできない仕事」は、今までよりも上流工程の創造性が求められる仕事になっていきます。例えば、自分で何か企画を立ち上げたり、現状の課題を特定し改善案を提示したり、人に感動を与える創作をしたり、答えややり方が決まっておらず柔軟な意思決定が求められるような、AIやロボットにはできないことこそ人間が行う必要性が高まります。同時に、それができる人材が必要になってきているのです。
「どういう人材を採るべきかのセグメントは変わってきている」と言い換えてもいいでしょう。しかし、実際の現場にはそういった創造性の高い仕事ができる人間が少ないです。上司から言われたことや、業務指示に従って仕事をする人間のほうが日本の組織に多いというのが実態なのです。結果的に、経営者は「人材不足」を感じてしまうのです。
近藤 悦康
株式会社Legaseed
代表取締役CEO