面接では神経質なくらい「事実」を集める
コンサルティングの仕事で、面接担当者に対してあるトレーニングを実施する機会がしばしばあります。
その内容は、現役の学生を招き、参加している面接担当者に面接してもらい、担当者同士ですり合わせないまま評価を付ける、というものです。多くの場合(これまで100%)、面接担当者の評価は割れます。ある人を高く評価する人もいれば、低く評価する人もいる、ということが起こるのです。
しかも、「どういう事実(学生が語ったエピソード)から評価をつけたか」と尋ねると、実に多くの人が「事実なし」で評価していたと答えたのです。
理由の一つは、第一印象に強く引っ張られているからです。既に何度か取り上げている「心理バイアス」が、思考や判断に多くの影響を及ぼしています。例えば、出身大学や出身地、趣味や経験したスポーツなどの学生と共通点が多い面接担当者は、学生が話すエピソードの内容にかかわらず、その学生に親しみを感じて無意識に高く評価しがちです。
とはいえ、印象というものは完全ランダムに湧くものではありません。おそらく面接中の表情や姿勢など、何らかの事実から判断したのだとは思いますが、それらはあくまで氷山の一角であり、候補者の一面でしかありません。
大事なことは、「自分はどの事実から、相手を評価したのか」を、神経質なぐらい意識することです。一度かかったバイアスから抜け出すのは困難ですが、判断の起点を明確に意識することで評価の調整を行えます。
そのためには、十分な「事実」を集めることですが、実はこれも多くの面接担当者ができていないことです。理由は、多くの面接担当者の「コミュニケーション能力」が高いからです。
矛盾しているようですが、ここでいう「コミュニケーション能力」とは、相手と上手にやり取りするための想像力が豊かという意味です。具体的には、候補者が話す内容を先に推測してイメージできる能力です。特に日本社会では「あうんの呼吸」「空気を読む」といった、「言っていないことを想像する」ことが好まれるため、なおさら望ましい能力でしょう。しかし、面接でこの能力は評価の障害になります。面接では、「相手が言っていないことは聞いていない」くらいの心構えでいる必要があるのです。
よって面接担当者は、想像がつくような話であっても、日常的には「くどい」と思われるくらい質問を繰り返し、事実を候補者に話してもらえるように働きかけることが大切です。
ポイント
•第一印象に引っ張られると候補者の適切な人となりを推定できないので、「判断の起点となる事実」を神経質なぐらい意識する。
•面接では、「相手が言っていないことは聞いていない」が鉄則。日常的には「くどい」と思われるくらい質問をする。
曽和 利光
株式会社人材研究所 代表取締役社長