(写真はイメージです/PIXTA)

世界全体が急速な技術発展とともに成長するなか、「失われた30年」との言葉があるように、日本は「名目成長ゼロ・物価上昇率ゼロ・金利ゼロ」と停滞が続いてきました。そのようななか、経済成長の停滞を肯定する論調が蔓延してきたと、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏はいいます。日本の長期停滞を生みだした要因とはなにか……バブル崩壊後、日本を「停滞国家」に変えた黒幕の正体をみていきましょう。

日本は「貿易で稼ぐ国」から「海外投資で稼ぐ国」へ

日本企業は最初は円高に対応して、そしてのちには需要成長を求めて海外ビジネスを急拡大させてきた。その結果日本は貿易で稼ぐ国から海外投資で稼ぐ国に変わったことは、[図表3]の日本の経常収支の内訳推移をみれば明瞭である。

 

この海外投資収益依存の所得構成が極めて特異であることは、[図表4]の各国比較から明らかである。日本以外のすべての経常黒字国は、貿易で稼いでいるのである。 

 

[図表3]経常収支と内訳推移

 

[図表4]主要国の経常収支内訳比較

 

この海外投資の急増は[図表5]に顕著に表れている。企業の海外投資残高は2003年の22兆円から急増し2021年には172兆円へと、増加した。停滞日本の下でも企業所得は増加し資本の蓄積は続いたが、それは高いリターンを求めて海外に流出したのである。

 

[図表5]日本企業の海外投資と海外投資比率推移

 

日本金融機関もまた海外への投融資を激増させた。[図表6]は主要国の対外投融資残高の推移をみたものであるが、リーマンショック以降日本の銀行の対外投融資は2009年第1四半期末の2兆ドルから2022年第1四半期末には5兆ドルへと増加した。

 

10年余りでの3兆ドル(400兆円)という突出した増加により日本の銀行は海外収益基盤を確保したが、それは巨額の国富が海外に漏出したともいえた。もっとも日本の銀行は同時に外貨建て負債を増加させ、ドル資金の短期調達、長期貸しポジションを高めてきたので、対外投融資増加が全て国内からの資金漏出ではない。

 

[図表6]日米英独銀行の対外投融資残高推移

 

資本流出は日本企業による海外企業買収、日本の投資家による外貨資産運用などによっても、加速した。

 

[図表7]我が国企業による海外M&A推計

 

その1例はGPIFによる外国株式、外国債券投資の急増にみられる。2009年まで15%程度にすぎなかった外国証券の比率は2021年には50%に達した。このGPIFのポートフォリオの多様化、海外証券投資シフトにゆうちょ銀行をはじめ多くの機関投資家が追随した。

 

[図表8]GPIF運用資産割合推移

 

技術革新と生産性向上の成果が海外へ漏出

以上のように日本には技術革新と生産性上昇の成果が残らず、海外に漏出するという形の均衡状態が20年余りにわたって続いたのである。

 

その結果、日本は国内の停滞とは裏腹に海外投資を積み上げ、突出する世界最大の対外純資産国となった。いわば大英帝国と同様、「海外資産による金利生活国」となったのである。

 

[図表9]対外純資産残高推移(トップ5圏)

 

 

武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表
 

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※本記事は、武者リサーチが2022年10月25日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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