日本は「貿易で稼ぐ国」から「海外投資で稼ぐ国」へ
日本企業は最初は円高に対応して、そしてのちには需要成長を求めて海外ビジネスを急拡大させてきた。その結果日本は貿易で稼ぐ国から海外投資で稼ぐ国に変わったことは、[図表3]の日本の経常収支の内訳推移をみれば明瞭である。
この海外投資収益依存の所得構成が極めて特異であることは、[図表4]の各国比較から明らかである。日本以外のすべての経常黒字国は、貿易で稼いでいるのである。
この海外投資の急増は[図表5]に顕著に表れている。企業の海外投資残高は2003年の22兆円から急増し2021年には172兆円へと、増加した。停滞日本の下でも企業所得は増加し資本の蓄積は続いたが、それは高いリターンを求めて海外に流出したのである。
日本金融機関もまた海外への投融資を激増させた。[図表6]は主要国の対外投融資残高の推移をみたものであるが、リーマンショック以降日本の銀行の対外投融資は2009年第1四半期末の2兆ドルから2022年第1四半期末には5兆ドルへと増加した。
10年余りでの3兆ドル(400兆円)という突出した増加により日本の銀行は海外収益基盤を確保したが、それは巨額の国富が海外に漏出したともいえた。もっとも日本の銀行は同時に外貨建て負債を増加させ、ドル資金の短期調達、長期貸しポジションを高めてきたので、対外投融資増加が全て国内からの資金漏出ではない。
資本流出は日本企業による海外企業買収、日本の投資家による外貨資産運用などによっても、加速した。
その1例はGPIFによる外国株式、外国債券投資の急増にみられる。2009年まで15%程度にすぎなかった外国証券の比率は2021年には50%に達した。このGPIFのポートフォリオの多様化、海外証券投資シフトにゆうちょ銀行をはじめ多くの機関投資家が追随した。
技術革新と生産性向上の成果が海外へ漏出
以上のように日本には技術革新と生産性上昇の成果が残らず、海外に漏出するという形の均衡状態が20年余りにわたって続いたのである。
その結果、日本は国内の停滞とは裏腹に海外投資を積み上げ、突出する世界最大の対外純資産国となった。いわば大英帝国と同様、「海外資産による金利生活国」となったのである。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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