不動産を購入したら「登記」を急ぐべし
不動産を購入したら、至急、その不動産の名義を売主から買主へと変更しなければなりません。この名義変更の手続きを「登記」といいます。
登記については、その大元ともいうべき法務省がインターネット上で雛形を公開しています。そのため一般の方でも自力で簡単にできるように思われたり、実際にご自身でやってみたりする方もいらっしゃいます。中には登記を「単に名義変更するだけ」「AさんからBさんに書き換えるだけの簡単な作業」というように捉えている方が少なくありません。
法学部などで民法を学んだことのある方であれば、登記についても習いますので、その重要性は理解しているかと思います。しかし、特に法学部でもなく、民法を学んだこともない方であれば、「民法」の存在は知っているにせよ、中身まではあまりご存じではないでしょう。多くの方々は「登記って何?」というレベルだと思います。
登記手続きでは、決済の場に司法書士が立ち会います。なぜ司法書士が立ち会い、立ち会った当日中に法務局で急いで登記の申請をするのか。このあたりも含めて、登記の重要性を解説していきます。特にこれから不動産を購入される予定のある方にはぜひ認知していただきたいと思いますので、ぜひ最後までお読みください。
事例:登記を後回しにしていたら…
では、事例とともに見ていきましょう。登場人物はA、B、Cの3名です。
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<事例:登記を後回しにしていたら二重売買されていた!>
令和4年5月1日、Aさんは自分が持つ不動産をBに売却し、代金を受領しました。
冒頭でも述べたように、不動産を購入したら登記を急がなくてはいけません。しかしBさんは不動産を購入したきり、登記を放置していました。
不動産には、その名義(所有者)が記載されている「登記簿」があります。Bさんが登記をしなければ、登記簿上の名義は依然としてAさんのまま。つまりその不動産の所有者はAさんと記載されている状態です。
Aさんはそれをいいことに、新たにCさんという買主を見つけます。「ほら、私が所有者ですよ。」Aさんの名前が記載された登記簿を、Cさんは疑いませんでした。そして令和4年5月10日、Aさんはその不動産を売却するとともにお金を受け取り、Cさんは購入したその日のうちに登記を済ませました。
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ここからどんな問題が生じるでしょうか。
Aさんは、Bさん・Cさんに対して不動産を二重売却し、双方からお金を受け取っていますから、誰がどう見ても悪者に違いありません。法律以前の問題です。
一方でBさん・Cさんはいいように騙され、お金を取られてしまった被害者です。とはいえ、不動産は1つしかありません。不動産は今後どちらのものになるのでしょうか? この問題のカギとなるのが「登記」です。
所有者は「先に登記を入れた人」
結論から言うと、その不動産は、登記を入れたCさんのものになります。
理屈で考えれば、単純にBさんが所有者になります。まずBさんのほうが先に不動産を購入し、AB間で売買契約を結んでいるため、実態上の所有権はBさんが取得しています。
単にBさんが登記をしていないため登記簿上はAさんの名義が登録されたままですが、Aさんに所有権はありません。よってAさんは、Cさんに対し、すでに自分の所有物ではないものを自分のものと偽って売却したことになります。Cさんの購入時点で、すでにその不動産の所有権は空(カラ)だったわけですから、Cさんに所有権は移らないはずです。
ですから理屈で考えると、単に登記をしていないだけで所有権はBさんにあり、Cさんは所有権を取得できないことになります。それにもかかわらず、なぜ結果的にCさんが所有者になれるのでしょうか? その答えは民法第177条にあります。
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【民法第177条】
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
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現実では、事例のようにBさん・Cさんのどちらにも非がなく、一般常識ではどちらに配慮されるべきか判断がつきにくいケースがあります。そんなときの対処を定めたものが法律です。
事例ではBさんが先に購入しているため、Bさんが所有権を取得しています。本来、所有権のない不動産を売ることはできません。そのためBさんが所有者…という決着になりそうですが、民法では“早い者勝ち”ならぬ「先に登記を入れた者勝ち」にすると規定されています。
登記をしていなければ「泣き寝入り」する羽目に…
登記を急ぐべき理由は、民法第177条の「対抗要件」を満たすためです。
不動産を購入する場合、決済に立ち会った司法書士がその日のうちに登記申請を行うことになります。ところがその司法書士がうかうかしていて、売主がAさんのような悪人だったとしたら、どうなるでしょうか。後日その不動産を別の人に二重売買し、新しい買主が先に登記を済ませてしまい、先に購入して代金も支払った自分は所有権を取得できなくなってしまった…と、事例と同じ事態に陥る恐れがあります。
これは非常に大問題です。事例でいうAさんのような人はもちろん悪人ですから、騙し取ったお金を持って高飛びしてしまい、捕まえられないでしょう。Bさんのようにきちんとお金を払ったのに登記が遅れて不動産を取得できなかった人は、Aさんに対して損害賠償請求するなどして売買代金を取り戻すことも可能です。しかしAさんが捕まらないことには、取られたお金は回収できません。大金を失い、不動産も取得できず、最悪の事態に陥ります。
登記は「対抗要件を得るため」に必要な手続き
不動産を購入したときの登記とは、単に登記簿上の名前を書き換えるだけの作業ではありません。対抗要件のような、法律で決められた重要なものを満たすために必要な手続きです。
登記はお金を払った当日にビシッと決めることが大切です。冒頭でも述べた通り、法務省HPでは登記の雛形が公開されていて、実際にご自身で登記を試みる方もいらっしゃいます。しかし手続きがいい加減だと、申請が却下されたり取り下げられたりして、なかったことにされてしまいます。もちろんこの場合も、お金を払っているにもかかわらず対抗要件を得られていない状態となります。
不動産の購入には何千万円という大金がかかります。ですから、間違いなく自分のものであるという事実を確定させるためにも、多少のコストはかかるとしても、司法書士などのプロに依頼することをオススメします。
【動画/登記を急ぐべき理由を司法書士が世界一分かりやすく解説します。】
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
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